資本的支出の意味とは?修繕費との違いや判定基準をわかりやすく解説
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大西 勝士
大西 勝士
フリーランスの金融ライター(AFP、2級FP技能士)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数のメディアで執筆しています。

不動産投資で建物の修理や改良を行った場合「その支出は修繕費で処理する」と考える人も多いのではないでしょうか。しかし状況によっては、修繕費ではなく資本的支出として処理をしなくてはなりません。資本的支出とは、どのようなもので不動産投資にどんな影響を与えるのでしょうか。今回は、資本的支出の意味や判定基準、修繕費との違いについてわかりやすく解説します。

目次

  1. 資本的支出とは
    1. 資本的支出と修繕費の違い
    2. 資本的支出の具体例
  2. 資本的支出と修繕費の会計処理
  3. 資本的支出と修繕費を区分する際の主な判定基準
    1. 修理・改良の支出が20万円未満か
    2. 修理・改良がおおむね3年以内の周期で行われるか
    3. 維持管理・原状回復のための費用か
    4. 修理・改良が使用可能期間を延長させ、価値を増加させるか
    5. 支出が60万円未満または前期末取得金額の10%相当額以下か
  4. 資本的支出が不動産投資に与える影響
  5. 資本的支出と修繕費の判断が難しい場合の対処法
  6. まとめ
  7. 資本的支出と修繕費に関するよくある質問
    1. Q.資本的支出と修繕費との違いは?
    2. Q. 資本的支出と修繕費を区分する際の判定基準とは?
    3. Q. 資本的支出と修繕費の判断が難しい場合はどうするの?

資本的支出とは

固定資産の修理や改良などのために支出した金額のうちその固定資産で使える期間を延長させたり価値を増加させたりする費用を「資本的支出」といいます。 不動産投資で建物の修繕や室内のリフォームなどを行うと修繕費として会計処理を行うのが一般的です。しかしその支出が建物の価値を増加させる場合は、資本的支出として処理する必要があります。

資本的支出と修繕費の違い

資本的支出と修繕費は、会計処理に違いがあります。修繕費の場合は、支出金額がその年の必要な経費です。しかし資本的支出は、固定資産の取得価額に含まれます。一括で必要経費にはならないため、支出金額を資産計上することが必要です。

資本的支出の具体例

国税庁が示している資本的支出の具体例は、以下の通りです。

  • 建物の避難階段の取り付け(物理的に加えた部分の金額)
  • 用途変更のための模様替え(改造や改装に直接要した金額)
  • 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取替え(通常の取替えの金額を超える部分の金額)

修理や改良が固定資産の価値を高めたり耐久性を増したりする場合の費用は、資本的支出です。ただし上記に当てはまる場合でも支出金額などによっては修繕費として処理できるケースもあります。資本的支出と修繕費の判定基準については、後ほど詳しく説明します。

資本的支出と修繕費の会計処理

先述したように資本的支出と修繕費では、会計処理方法が異なります。例えば修繕費を10万円支出した場合の会計処理(仕訳)は、以下の通りです。

借方金額貸方金額
修繕費10万円現金10万円

修繕費は、全額がその年の必要経費として認められます。支出金額が大きければその年の課税所得が減少するため、税負担の軽減が期待できるでしょう。

一方で修理や改良によって使用できる期間が延長された場合は、以下の計算式に基づいて資本的支出の金額を計算します。

資本的支出=支出金額×延長された耐用年数÷延長後の残存耐用年数

具体例を確認しましょう。

取得から27年経過した建物(取得時の法定耐用年数47年)の改修工事を行い、1,000万円を支出した。耐用年数は5年間延長され、残存耐用年数は25年となった。

このケースにおける資本的支出の金額は200万円(1,000万円×5年÷25年)です。会計処理は以下のように行います。

借方金額貸方金額
建物(資本的支出)200万円現金1,000万円
修繕費800万円

資本的支出は、全額がその年の必要経費になるわけではありません。資産計上して減価償却するため、最終的には全額が必要経費に算入されます。ただし資産計上した金額を法定耐用年数にわたって分割して必要経費に算入していくため、節税効果を得るまでに時間がかかります。

資本的支出と修繕費を区分する際の主な判定基準

不動産投資で修繕や修理のために費用を払ったときに資本的支出と修繕費のどちらに該当するかどのように判断すればよいのでしょうか。ここでは、資本的支出と修繕費を区分するための判定基準を紹介します。

修理・改良の支出が20万円未満か

1つの修理・改良について支出した金額が20万円未満の場合の支出は、修繕費です。たとえ使用可能年数を延ばしたり資産価値を増加させたりするものでも少額の支出であれば一括で必要経費に算入できます。

修理・改良がおおむね3年以内の周期で行われるか

約3年以内の周期で1つの修理・改良が行われる場合、その支出は修繕費に該当します。支出金額が20万円以上でも約3年周期で発生するものであれば一括で必要経費に算入可能です。

維持管理・原状回復のための費用か

支出金額20万円未満または約3年周期に該当しない場合、固定資産の維持管理や原状回復のための費用であれば修繕費として処理できます。維持管理とは、固定資産の機能や品質が損なわれないように管理することです。原状回復は、固定資産が損傷したときに元の状態に戻すことを意味します。

支出金額20万円未満や3年周期に当てはまらないときは、かかった費用が維持管理や原状回復に該当するかを検討しましょう。

修理・改良が使用可能期間を延長させ、価値を増加させるか

修理や改良によってその固定資産の使用可能期間が延びたり価値が増加したりする場合は、資本的支出に該当します。具体的には「新たな機能が追加された」「修理前より資産価値が上がった」「長く使えるようになった」といったケースです。

支出が60万円未満または前期末取得金額の10%相当額以下か

ここまで説明した基準に照らし合わせても資本的支出と修繕費の区分が明らかでない場合は、支出金額が60万円未満であれば修繕費となります。また支出金額が「その固定資産の前期末取得金額の10%相当額以下」のときも修繕費として処理可能です。

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資本的支出が不動産投資に与える影響

不動産投資では、修理・改良費用が資本的支出か修繕費かによって税金の支払いに影響が出ます。修繕費は、一括で必要経費に算入できるため、その年の課税所得金額が減少して所得税・住民税の負担を軽減させることが可能です。資本的支出も最終的には、全額が必要経費になりますが法定耐用年数で減価償却をするため、必要経費になるまでに時間がかかります。

資本的支出があった年は、大きな費用がかかった割に課税所得金額が減少しません。その結果、税負担が重くなって資金繰りが厳しくなる恐れがあります。また資本的支出に該当する費用を誤って修繕費として処理すると脱税行為とみなされる可能性があるため、注意が必要です。税務調査などで誤りを指摘された場合、修正申告をしなくてはなりません。

状況によっては、延滞税や加算税を課され本来より多くの税金を払うことになります。建物や設備の修理・改良が必要な場合は、その支出が資本的支出と修繕費のどちらに該当するかを見極めて適切に処理をすることが大切です。

資本的支出と修繕費の判断が難しい場合の対処法

先ほど示した基準を使っても資本的支出と修繕費を判断するのが難しい場合は、税理士や税務署に相談しましょう。税金のプロである税理士に相談すれば判断基準についてアドバイスがもらえます。税理士報酬はかかりますが会計処理や確定申告を代行してもらうことも可能です。万が一税務調査を受けることになった場合でも税理士に立ち会ってもらえる点もメリットといえるでしょう。

一方で税理士ではなく税務署に相談する方法もあります。税務署は、納税者からの相談を受け付けており関連書類を持参して相談すれば資本的支出と修繕費の区分についてアドバイスを受けることが可能です。会計処理や確定申告は、自分でしなくてはなりませんが相談料はかかりません。確定申告時期は混み合うため、税務署に相談するなら繁忙期(1~3月)は避けたほうがいいでしょう。

資本的支出と修繕費の区分を間違えると修正申告や加算税・延滞税のリスクがあります。わからない場合は、自己判断せずに税理士などの専門家へ相談したうえで処理するのが確実です。

まとめ

不動産投資で建物などの修理・改良を行った場合、支出した金額が資本的支出と修繕費のどちらに該当するかを区分しなくてはなりません。資本的支出と修繕費は、会計処理方法や必要経費の計上時期が異なるため、税金の支払いや資金繰りに影響を与えます。資本的支出と修繕費の区分を判断できない場合は、税理士や税務署に相談しましょう。

資本的支出と修繕費に関するよくある質問

Q.資本的支出と修繕費との違いは?

会計処理に違いがあり、修繕費の場合は支出金額がその年の必要な経費。資本的支出は、固定資産の取得価額に含まれます。

Q. 資本的支出と修繕費を区分する際の判定基準とは?

修理・改良の支出が20万円未満、おおむね3年以内の周期で修理・改良が行われているか、維持管理・原状回復のための費用をあてられているかなどで判断します。

Q. 資本的支出と修繕費の判断が難しい場合はどうするの?

税理士や税務署に相談して、判断基準についてアドバイスがもらうことをおすすめします。

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