生前贈与は相続税対策になるため、最近は収益物件の生前贈与を検討するオーナーが増えています。生前贈与は、なぜ注目されているのでしょうか。また、本当に得なのでしょうか。今回は、賃貸物件の生前贈与の内容を確認した上で、検討する際の5つのポイントを見ていきましょう。
「賃貸物件の生前贈与が得」と言われる理由
昨今、賃貸物件の生前贈与に不動産投資家の視線が集まっています。理由は以下のとおりです。
収益を含めて子や孫に譲れる
自宅や別荘と違い、賃貸物件は家賃や共益費といった収益を生み出す財産です。赤字による節税効果も含めると、そのメリットはさらに大きくなります。
一方で現役世代の現在の経済状況を見ると、「老後2,000万円不足問題」がメディアで話題になるほど深刻です。年金受給は不安ばかりですし、仕事をいくら頑張っても、昔のような右肩上がりの収入は期待できません。
子や孫に不労所得を得られる財産を移転すれば、彼らの現在の生活や老後の役に立ちます。
相続対策になる
財産には、欠点もあります。それは、収益が蓄積すると財産額が大きくなることです。収益は、生活などで一部を費消する以外はどんどん蓄積していきます。すると、相続の際に多額の相続税が発生してしまいます。
しかし、生きている間に財産を子や孫に移せば、今後の収益の蓄積も移転することになるので、将来発生する相続税額を抑えることができます。
また賃貸物件の評価額が低い場合は、非課税枠2,500万円の相続時精算課税制度を使って贈与をすれば、贈与税はかかりません。
賃貸物件の生前贈与をする前に考えるべき5つのこと
以上が収益物件の生前贈与の利点です。ただし、実行する際は以下の5点に注意すべきです。
相続時精算課税制度は節税にならない
「2,500万円の非課税枠がある相続時精算課税制度を使えば、贈与税を支払うことなく子や孫に資産を移転できる」と書きましたが、実は相続時精算課税制度は相続税の節税にはなりません。相続時精算課税制度の適用を受けた贈与は、相続が発生するとすべて相続財産に加算され、あらためて相続税が計算されます。
つまり、生前贈与で贈与税0円だったとしても、財産の贈与者である親や祖父母が亡くなったら、相続税が発生する可能性があるのです。
ただし相続財産に加算される金額は、贈与時の評価額です。そのため、贈与者の死亡時に値上がりするような財産なら、相続時精算課税制度を利用することで値上がり分を節税することができます。賃貸不動産の価格の変動を考慮した上で、活用を検討するといいでしょう。
不動産取得税・登録免許税がかかる
不動産を相続した場合、不動産取得税はかかりません。登録免許税はかかりますが、0.4%という軽減税率が適用されます。一方で不動産を生前贈与すると、3%の不動産取得税と2%の登録免許税を受贈者側が納めることになります。
つまり賃貸物件を生前贈与すると、財産を受け取った側に経済的な負担がかかるのです。
小規模宅地等の特例が受けられない
賃貸不動産を持ち主の相続人が賃貸事業の継続を前提に相続すると、賃貸物件の宅地について200平方メートルを上限に評価額が50%減額されます。これが「小規模宅地等の特例」ですが、生前贈与された不動産にはこれが適用されません。この特例を適用できる場合は、贈与よりも相続のほうが得かもしれません。
特別受益・遺留分の問題
賃貸不動産の生前贈与では、特定の人に対して多額の贈与をすることになります。推定相続人が1人だけなら問題ありませんが、複数人が相続をする可能性がある場合は、相続の発生後にそれが特別受益とされ、遺産分割の際の争いになりかねません。また、他の相続人の遺留分を侵害した生前贈与も問題になります。賃貸不動産の生前贈与をするなら、これらにも配慮する必要があります。
子や孫は不動産投資に向いているか
子や孫の適性も考えなくてはなりません。不動産賃貸事業は投資の一種です。利回りや損益計算に敏感な人には向いていますが、自分の実力で事業を立ち上げて勝負していきたい人には向かないかもしれません。
最近は「サラリーマン大家」が増えていますが、会社の仕事とプライベートだけに集中したい人にとって、賃貸事業は重荷になる可能性があります。収益物件の贈与が、必ずしも喜ばれるわけではないのです。
「相続と贈与、どっちが得?」を事前に検討しよう
収益物件の生前贈与には、メリットもデメリットもあります。「生前贈与=相続税対策」というイメージが強いですが、必ずしも節税になるとは言えません。安易に踏み出すのではなく、相続と生前贈与のどちらが得かについて、事前にきちんとシミュレーションするようにしましょう。
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