配偶者居住権
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約40年ぶりに相続法が改正され、「配偶者居住権」という権利が新設されました。配偶者居住権は、二次相続や小規模宅地等の特例など状況によって相続税の節税になるかもしれません。親の自宅を相続する可能性がある場合は、配偶者居住権の概要やメリット・デメリットを知っておくといいでしょう。

目次

  1. 1.配偶者居住権とは
    1. 1-1.配偶者居住権の具体例
    2. 1-2.配偶者居住権の成立要件
  2. 2.配偶者居住権のメリット
    1. 2-1.夫(妻)が亡くなった後も自宅に住み続けられる
    2. 2-2.自宅以外の財産を取得しやすくなる
  3. 3.配偶者居住権のデメリット
    1. 3-1.配偶者居住権は売却できない
    2. 3-2.リフォームや賃貸に出すには所有者の許可が必要
  4. 4.配偶者居住権は相続税の節税になる?
  5. 5.配偶者居住権の注意点
    1. 5-1.小規模宅地等の特例との関係
    2. 5-2.配偶者居住権の評価方法
  6. 6.配偶者居住権は残された配偶者の生活を守るための制度

1.配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人の所有する建物に居住していた場合、被相続人が亡くなった後もその建物に無償で住み続けられる権利です。

被相続人が所有していた財産(預貯金、自宅など)は、原則として配偶者と子で2分の1ずつ相続します。そのため改正前は、配偶者が自宅を相続すると十分な預貯金を受け取れなくなり、老後の生活資金が不足してしまう問題がありました。

しかし、配偶者居住権を取得すれば、残された配偶者は自宅での居住を続けながら受け取ることができる他の財産額が増えます。平均寿命が延びたことで、夫婦のどちらかが亡くなった後も、残された配偶者が長く生活を続けるケースが増えていることから配偶者居住権が新設されました。

1-1.配偶者居住権の具体例

配偶者居住権の具体例として、相続人が妻と子、遺産が自宅(2,000万円)と預貯金(3,000万円)の合計5,000万円のケースについて確認してみましょう。

法定相続分は「妻:子=1:1」なので、妻と子で2,500万円ずつ相続します。妻が自宅を相続する場合、改正前は以下のように遺産を分けることになります。

  • 妻:自宅2,000万円、預貯金500万円(合計2,500万円)
  • 子:預貯金2,500万円

この場合、妻は自宅を相続することで住む場所は確保できますが、老後の生活資金である預貯金を500万円と十分に受け取ることができません。

しかし改正後、配偶者居住権を取得する場合は、自宅を「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分けて評価し、妻は配偶者居住権、子は負担付き所有権が付与されます。仮に自宅2,000万円の内訳が「配偶者居住権1,000万円、負担付き所有権1,000万円」だとすると、以下のように遺産を分けることになります。

  • 妻:配偶者居住権1,000万円、預貯金1,500万円(合計2,500万円)
  • 子:負担付き所有権1,000万円、預貯金1,500万円(合計2,500万円)

このように、配偶者居住権を取得することで、妻は自宅以外の財産である預貯金を1,500万円に増やすことができます。

1-2.配偶者居住権の成立要件

配偶者居住権の成立要件は以下3つです。

  • 相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと
  • 遺産分割や遺贈(遺言によって財産を譲ること)により取得すること
  • 相続開始時に被相続人が建物を配偶者以外の者と共有していないこと

これらの要件を満たさない場合、配偶者居住権は成立しないので注意が必要です。配偶者居住権は、夫婦で共有する建物についても認められます。また、配偶者居住権を第三者へ主張するには登記が必要です。

2.配偶者居住権のメリット

配偶者居住権のメリットは以下の通りです。

2-1.夫(妻)が亡くなった後も自宅に住み続けられる

これまでは、被相続人の財産の状況によっては、残された配偶者が自宅に住み続けられないケースがありました。しかし、配偶者居住権を取得すれば、夫(妻)が亡くなった後も無償で自宅に住み続けられます。

ただし、固定資産税や修繕費など、自宅に住むにあたって発生する通常の費用は残された配偶者が負担する必要があります。

2-2.自宅以外の財産を取得しやすくなる

配偶者居住権は、自宅以外の財産を取得しやすくなるのもメリットのひとつです。相続財産の大半を自宅が占める場合、自宅を相続するとその他の資産(預貯金、金融商品など)を受け取れず、生活費が不足する可能性があります。

配偶者居住権を取得すれば、自宅は配偶者居住権と負担付き所有権に分けて評価されるため、自宅以外の財産を取得しやすくなります。夫(妻)がなくなった後も、残された配偶者は住む場所と生活資金の両方を確保できます。

3.配偶者居住権のデメリット

配偶者居住権にはいくつかデメリットもあります。

3-1.配偶者居住権は売却できない

配偶者居住権は、残された配偶者のみに認められた権利です。財産的な価値はあるものの、第三者に売却できません。

住み替えや介護施設への入居のために、自宅を売却して現金化しようと思っても、配偶者居住権を設定すると自宅に住み続ける必要があります。また、売却できないので、自宅を担保に金融機関から融資を受けるのも難しくなります。

ただし、所有者との合意があれば、配偶者居住権の放棄、消滅は可能です。ライフスタイルはいつ、どのように変化するかわかりません。将来自宅を売却する可能性がある場合は、配偶者居住権の取得は慎重に判断しましょう。

3-2.リフォームや賃貸に出すには所有者の許可が必要

配偶者居住権を取得すれば無償で自宅に住み続けられますが、所有者が別にいるため、建物を借りているのと同じ注意を払わなくてはなりません。

建物を現状維持するための修繕は、自宅に住んでいる配偶者が行います。しかし、リフォーム(増改築)を行うには所有者の許可が必要です。また、自宅を賃貸に出して収入を得ることもできるが、その場合も所有者の許可を得なくてはなりません。

配偶者居住権はあくまでも自宅に住み続けるための権利であり、賃貸住宅と同じような制約がある点に注意しましょう。

4.配偶者居住権は相続税の節税になる?

配偶者居住権は、相続税の節税になる可能性があります。夫が亡くなった後、妻が配偶者居住権、子が負担付き所有権を取得するケースについて確認しましょう。

自宅は「配偶者居住権」と「負担付き所有権」の2つに分けてそれぞれ評価され、どちらも相続税の課税対象となります。その後、妻が亡くなると配偶者居住権は消滅するため、所有権を持っている子は相続税の負担なく自宅を利用できるようになります。

配偶者居住権は、夫が亡くなったとき(一次相続時)は相続税の節税にはなりません。しかし、妻が亡くなったとき(二次相続時)は配偶者居住権の消滅により相続税が課税されないので、節税できる可能性があります。

夫婦が亡くなった後、子が自宅を相続する可能性が高いのであれば、相続税の節税を目的に配偶者居住権を設定するのも選択肢のひとつになるでしょう。

5.配偶者居住権の注意点

配偶者居住権の注意点は以下の通りです。

5-1.小規模宅地等の特例との関係

小規模宅地等の特例とは、自宅を相続するときに土地(330㎡まで)の相続税評価額が80%減額される税制優遇制度です。小規模宅地等の特例が適用されると、評価額が下がって相続税の節税になります。

子が小規模宅地等の特例を使えるかによって、配偶者居住権の節税効果は異なります。また、二次相続時の相続財産の状況によっても、配偶者居住権を利用したほうが有利かは変わってきます。

専門知識がないと配偶者居住権を利用すべきか判断するのは難しいので、相続に詳しい税理士などの専門家に相談するといいでしょう。

5-2.配偶者居住権の評価方法

配偶者居住権の価額は、居住建物の相続税評価額や耐用年数、平均余命などを用いて計算します。計算式は複雑なので、専門知識がないと理解するのは難しいでしょう。

また、配偶者居住権は新しい制度であるため、利用するケースが少なく、評価方法については不透明な部分も多いです。実際に配偶者居住権を取得する場合は、専門家に評価額の算定を依頼する必要があります。

6.配偶者居住権は残された配偶者の生活を守るための制度

配偶者居住権は、夫(妻)が亡くなった後も残された配偶者が自宅に住み続けられる権利です。あくまでも配偶者保護が目的であり、相続税の節税のために創設された制度ではありません。ただし、状況によっては相続性の節税につながるので、必要に応じて税理士などの専門家に相談しましょう。

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