確定申告
(画像=PIXTA)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

「不動産投資で少しでも節税をしたい」「資金繰りをラクにしておきたい」と思うなら「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に出しましょう。特に年初めから投資を開始した人は注意したいところです。今回はこの2つの書類の内容と得られるメリットについて解説します。

目次

  1. 年初開始の投資は確定申告期限までに「開業届」と「青色申告承認申請書」を出そう
    1. 開業届とは
    2. 青色申告承認申請書とは
  2. 開業届を出すメリット
    1. 融資を受けやすい
    2. 青色申告承認申請書を提出できる
  3. 青色申告承認申請書を出すメリット
    1. 30万円未満の固定資産を使ったらすぐ経費にできる
    2. 損失が出たら3年間繰り越せる
    3. 青色申告特別控除を使えば支出ゼロで節税できる
  4. 丁寧な帳簿付けと領収書類の7年間の保存も忘れずに

年初開始の投資は確定申告期限までに「開業届」と「青色申告承認申請書」を出そう

年初から1月15日までの間に不動産の賃貸事業を始めたのならば、確定申告期限までに開業届と青色申告承認申請書を税務署に出したほうがよいかもしれません。後ほど詳しく述べますが、この2つの書類を提出することでさまざまなメリットが得られるからです。なお、例年であれば個人の所得税の確定申告期限は3月15日(土日や祝日と重なった場合はその次の平日)です。

ただし今年は新型コロナウィルス拡大防止のため、2021年4月15日が期限となっています。提出によるメリットを解説する前にそれぞれの書類がどういうものかについて確認していきましょう。

開業届とは

開業届とは、不動産所得の元となる不動産賃貸業を新たに始めるときに税務署へその内容を伝えるために提出する届け出です。不動産所得のほか事業所得や山林所得でも使います。事業を開始したら1ヵ月以内に提出するのが原則ですが、1ヵ月過ぎて提出しても特段ペナルティがあるわけではありません。届け出には不動産賃貸業をする人の氏名や住所、生年月日やマイナンバー、事業開始日などを記載します。

青色申告承認申請書とは

青色申告承認申請書とは、開業届を出した人だけが税務署に提出できる書類です。これを出すと後述する青色申告の特典を受けることができ結果的に節税することができます。ただし収入や費用を複式簿記で帳簿に記録したり、領収書を保管したりしなくてはなりません。なお不動産所得のほか、事業所得、山林所得も青色申告の適用を受けることができます。

青色申告承認申請書の提出期限は「いつから事業を始めたか」によって以下のように異なります。

・その年の1月1日から1月15日までに事業を開始
確定申告期限(例年3月15日)までに提出

・その年の1月16日以降に事業を開始
事業開始日から2ヵ月以内に提出

開業届を出すメリット

不動産投資を始めた人が開業届を出すメリットは以下の2つです。

融資を受けやすい

個人の不動産投資家が資金調達のために金融機関に融資を申し込む際、開業届の確認が行われます。サラリーマン大家さんだと、勤務先の規模や源泉徴収票の提出が求められ開業届までは要求されないことも少なくありません。しかし開業届を出したほうが帳簿付けや管理をきちんと行うつもりであると見られ、融資を受けやすくなる可能性が高くなります。もちろん必ず融資が受けられるということではありません。

青色申告承認申請書を提出できる

青色申告承認申請書は単独で提出することができません。「不動産所得を生ずる事業をやります」と伝える開業届の提出をしないと青色申告によるメリットは受けられないのです。

青色申告承認申請書を出すメリット

不動産投資家が青色申告承認申請書を出すメリットは以下の3つです。

30万円未満の固定資産を使ったらすぐ経費にできる

クーラーや冷蔵庫といった固定資産は10万円以上になるとすぐに経費にすることができません。一度「器具備品」「付属設備」といった形で資産計上し、その後数年かけて減価償却費という名前で経費化していくのが原則です。青色申告承認申請書を出すと、購入した固定資産が10万円以上であっても全額を使い始めた年の経費にできます。

損失が出たら3年間繰り越せる

不動産賃貸事業が赤字になっても赤字が発生した年で完結するのが原則です。つまり不動産所得が2019年に10万円の赤字、2020年に20万円の黒字だった場合、所得税は2019年が0円(赤字は0円とされる)、2020年は20万円に税率をかけた金額になります。しかし青色申告承認申請書を出していれば発生した赤字を翌年以後3年間繰り越せます。

先の例だと、2019年の10万円の赤字を2020年に繰り越して相殺し、2020年の所得税は20万円ではなく「20万円(2020年)-10万円(2019年)=10万円」に税率をかけた金額となります。

青色申告特別控除を使えば支出ゼロで節税できる

青色申告承認申請書を提出すると「青色申告特別控除」という特別経費のようなものを所得から差し引くことが可能です。不動産所得は不動産賃貸業による利益をいい「収入金額-必要経費の総額」で計算します。青色申告をすると、計算された利益から10万円か65万円を青色申告特別控除額として差し引いて利益を小さくできます。

青色申告特別控除は通常の必要経費と違い、キャッシュアウトがありません。つまり、現金支出ゼロで節税できるのです。ただ、10万円か65万円かは自由に選べません。65万円の特別控除を使うには「5棟10室」という大規模な不動産賃貸をすること、複式簿記で帳簿をつけることが求められます。サラリーマン大家さんは青色申告をしても10万円控除になるのが一般的です。

丁寧な帳簿付けと領収書類の7年間の保存も忘れずに

「開業届」「青色申告承認申請書」の2つの書類を提出した後は、必ず帳簿つけをしましょう。現在、個人で事業を行う人は全員帳簿をつけるべきとされています。また帳簿や領収書類は原則7年間保管が必要です。一見面倒ですが、こまめな収支管理は節税だけでなく投資家自身の資産管理の役に立ちます。

>>通常は見ることのできないマンション開発の裏側を大公開!

【あなたにオススメ】
不動産投資が節税に効果あり?その真実とは?
不動産が相続対策に有効といわれる理由とは
不動産所得での節税に欠かせない必要経費の知識
次世代に資産を遺すためのアパート・マンション経営
物件売却は5年経ってから!譲渡所得税について理解しよう