

不動産投資をはじめる際に気になるのが所得税などの申告・納税手続きへの影響です。給与収入を主な収入源としている場合は、会社が年末調整を行ってくれるため、自分で確定申告を行ったことがない方もいるでしょう。しかし不動産投資をはじめる場合は、収入額によっては確定申告が必要となる場合があります。
本稿では、不動産投資をはじめても年末調整で申告・納税を完了させる方法や所得税などの税額計算・確定申告手順・注意点について解説していきます。
年末調整と確定申告の違い
所得税は、原則として国内で得られた1年間の所得をもとに自身で税額を計算し定められた期日までに納税する「確定申告」を行うことが必要です。しかし税額の申告・納税には、一定の条件を満たした場合にのみ選択できる「年末調整」という制度もあります。正しい納税は、投資活動を継続するうえでも重要な要素の一つとなるため、年末調整と確定申告についてしっかりと把握しておきましょう。
年末調整適用の条件とは?
所得税は、原則として自分で申告や納税を行うことが必要です。しかし給与収入を主な収入源としている場合は、勤務先の企業が社員に代わって所得税の税額を計算し納税を行う「年末調整」を利用していることが多いでしょう。年末調整の納税期限は、翌年1月10日となるため、勤務先によって11~12月の年末に実施されることが多い傾向です。
年末調整は、納税関係の手続き負担を軽減する優れた制度ですが、適用するには以下に示す諸条件をすべて満たす必要があります。
【年末調整の適用条件】
- ビジネスパーソンや公務員などの給与所得者(パート・アルバイトなど勤務形態は問わない)
- 給与および退職金以外の所得が年間20万円以下
- ダブルワークなど2ヵ所以上で就労し複数の源泉徴収を行っていない
- 災害に被災するなどして所得税などの徴収猶予や還付を受けていない
- 年間の給与収入が2,000万円以下
確定申告が必要になる場合は?
年末調整の適用条件から不動産投資をはじめて所得が20万円を超えた場合は、年末調整が適用できなくなります。そのため、自身所得と税額を申告して納税する「確定申告」を行うことが必要です。一見すると納税関係の手続き負担が増えるため、デメリットを感じるかもしれません。しかし年末調整は、いわば確定申告の簡易版です。
そのため災害や盗難による被害を受けた場合に減税となる「雑損控除」や一定額を超える医療費を負担した場合に適用される「医療費控除」といったセンシティブな所得控除を適用することができなくなっています。また損失の通算による税還付も受けることができません。そのため以下のようなケースでは、確定申告のほうが正確な納税を行うことができます。
- 不動産所得が損失となっている
- 年末調整では適用できない所得控除を利用する
不動産投資の収入と経費
基本的に収入を得るために生じた経費は、収入から差し引くことができます。収入から経費を差し引いたものが「所得」です。所得税は、所得から社会保険控除や扶養控除などを差し引いた金額に対して課税されます。不動産投資における主な必要経費は、以下の通りです。
【不動産投資における経費の例】
- 固定資産税による「公租公課」
- 火災保険などの「損害保険料」
- 設備や建物の修理による「修繕費」
- 新聞代や不動産投資に関する勉強に要した「図書新聞費」
- 不動産会社などとの打ち合わせに要した「接待交際費」
- 不動産会社との打ち合わせなどに使用した電話代やインターネット代などの「通信費」
- 不動産投資のための移動に要した「旅費・交通費」や「自動車関連支出」
- 客付けのために要した「広告宣伝費」や「仲介手数料」
- アパートローンの金利に関わる「支払利息」
- 建物や高額設備の取得に要した「減価償却費」
このように不動産投資における経費は、幅広い分野で計上することが可能です。しかし高額な設備・什器や建物の取得費用は、一度にすべての費用を経費とすることができません。減価償却により一定期間にわたって分割して費用計上していくことになります。減価償却費は、建物の代金などすでに費用の支払いが終わっているため、翌期以降は実際に現金の支出を伴わない特殊な経費です。
そのため不動産投資で収入が手元に残った状態でも減価償却費を計上することで損失となれば所得税の節税効果を得ることができます。
所得税の計算方法と申告の注意点
不動産所得は、所得税の総合課税に区分されるものです。給与や事業収入を源泉とする「給与所得」や「事業所得」などと損益通算を行い算出された所得金額から雑損控除や医療費控除などの所得控除を差し引いて課税所得を算出。課税所得に一定の税率を掛けて所得税の納税額を算出します。例えば以下のケースで確認してみましょう。
年収(給与による収入) | 600万円 |
---|---|
給与所得控除 | 164万円 |
不動産収入 | 120万円 |
不動産経費 | 80万円 |
社会保険料控除 | 100万円 |
基礎控除 | 48万円 |
所得税の納税額は、以下の計算によって算出されます。
[(給与収入600万円-給与所得控除164万円)+(不動産収入120万円-不動産経費80万円)]-社会保険料控除100万円-基礎控除48万円=課税所得328万円
(課税所得328万円×所得税率10%)-控除額9万7,500円=所得税額23万500円
所得税は、課税所得が多いほど税率が高くなる累進課税制度を採用しています。そのため不動産所得で損失が生じた場合、課税所得が高い人ほど節税効果が高くなる傾向です。しかし節税のために無理に経費を計上しすぎてしまうと資金繰りの悪化を招いてしまう恐れがあります。また通信費や自動車関連支出などを自家用としても使用している場合は、費用の全額を計上するわけにはいきません。
この場合、不動産投資に使用した分のみを計上する「家事按分」を行うことも必要です。このほか不動産所得が損失となった場合は、アパートローンのうち土地の取得費用に関する支払利息は計上することができなくなる点にも注意しましょう。
不動産所得が20万円以下ならば年末調整が利用可能だが、赤字の場合などは確定申告が有利
給与所得者のうちすでに年末調整の適用を受けている方が不動産投資をはじめた場合、所得が20万円以下であれば年末調整で完了させることができます。しかし不動産所得が20万円を超えて年末調整の適用条件を満たせなくなった場合は、自身で確定申告を行い、所得税を納付することが必要です。年末調整では、税還付や雑損・医療費控除などが利用できません。
そのためこうした場合は、確定申告を行ったほうが税負担を軽減できる可能性があります。特に不動産投資の損益は、給与所得などと損益通算できるため、不動産投資が損失となった場合は所得税を算出する元になる課税所得を減らすことが可能です。不動産投資による損失は、主に必要経費が増えたときに引き起こされます。
しかし建物や設備の取得費となる減価償却費は、一度支払ってしまえば翌期以降は現金支出を伴わないため、手元にお金を残しつつ所得税の節税効果も得ることが期待できるでしょう。年末調整と比べると確定申告は手続きが多くなりますが、所得の実態に則した申告・納税を行うことで税負担が軽減される場合があります。
年末調整にこだわらず状況に応じて確定申告でも対応できるようにしておくことがおすすめです。
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