事業者,消費税,仕組み
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佐古野 道人
佐古野 道人
一般企業で不動産運用や税務を経験後、ファイナンシャル・プランナーとして独立。マネー専門ライターとしてWEBライティングの他、書籍の企画・構成にも携わる。得意分野は資産運用。日本FP協会資格認定会員(AFP)。

日本で生活していれば「消費税を払ったことがない」という人はいないはずです。とても身近な税金ですが納税の仕組みを知っている人は少ないのではないでしょうか。消費税は課税される範囲が広くすべての事業者にとって必須の知識といえます。もちろん不動産賃貸業者も例外ではありません。本記事では消費税の課税と納税の仕組みについて解説します。

目次

  1. 事業者にとって消費税の基本は「預かり、差し引き、納める」
  2. 課税事業者と免税事業者(不動産賃貸業の特例)
  3. 不動産賃貸業における課税売上
  4. 原則的な仕入控除税額の計算方法
  5. 課税売上割合が大事
    1. 個別対応方式
    2. 一括比例方式
  6. 一定割合で納税額から控除できる簡易課税制度
  7. 計算方法によって納付税額が変わる
  8. 事業者が知っておくべき消費税の仕組みに関するよくある質問
    1. Q.事業者にとっての消費税の基本は?
    2. Q. 不動産賃貸業における課税売上とは?

事業者にとって消費税の基本は「預かり、差し引き、納める」

消費税を間接的に負担しているのは消費者です。消費者は事業者に税金を納めているのではなくいったん預ける形をとっています。事業者はその中から必要とされる消費税分を税務署に納付しているのです。受け取った消費税をそのまま納めると二重三重に納税することになってしまいかねません。

これを避けるために事業者は受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて納付しています。例えば製造業のB社は商社のC社から110円(うち消費税10円)の材料を購入し小売業A社に220円(うち消費税20円)で販売、A社はこれを440円(うち消費税40円)で消費者に売ったとしましょう。

この場合、A社が納める消費税は40円-20円=20円です。B社は20円-10円=10円を納税することになります。C社やその仕入先も同様に計算していくとこの取引にかかる納税額の合計は約40円です。消費者が負担した金額と一致します。A社が差し引いた20円やB社が差し引いた10円は仕入税額控除といいます。

もし受け取った消費税よりも仕入税額控除のほうが大きければ還付が可能です。「何に課税されるか」や「仕入税額控除の計算」には細かいルールがあり、どう適用されるかによって事業者が納める(または還付を受ける)金額が変わります。

課税事業者と免税事業者(不動産賃貸業の特例)

消費税はすべての事業者が納付する(課税事業者となる)わけではありません。原則的に前々年度の課税売上高(消費税の課税対象となる売上高)が1,000万円以下であれば免除されます。(免税事業者)法人を設立してはじめの2期は、基準となる売上がないので免税事業者となるのが一般的です。法人設立当初でも課税事業者として届けを出せば消費税を納めることができます。

「納められる」ということは、「還付される可能性」もあるということです。初年度に大きな設備投資をする企業は、あえて課税事業者を選ぶこともあります。なぜなら免税事業者のままだと消費税の還付を受けられないからです。一度課税事業者となったとしても売上高が1,000万円以下になれば翌々年度にまた免税事業者に戻れます。

ただし1,000万円以上の建物などを購入した場合には3年間適用されません。後述する簡易課税制度も選択できなくなります。後ほど課税売上割合のところで説明しますが建物に関する消費税の還付を防ぐためのルールです。

不動産賃貸業における課税売上

消費税はすべての取引に課されるわけではありません。わざわざ「課税売上高」という言葉がある理由は、非課税とされていたり課税の対象にならなかったりする取引があるからです。例えば住宅の家賃は非課税とされています。また土地の売買や貸し付けも同様です。そのため一般的なマンション経営では売上のほとんどが非課税売上になります。

不動産賃貸業で課税売上高となるのは主に事務所の賃料です。住宅の貸し付けであっても1ヵ月未満の場合は 課税売上となりウィークリーマンションや民泊などがこれに相当します。駐車場は原則として課税対象です。ただし「土地として貸したものを賃借人が車両置き場に使った」ということであれば非課税と考えられます。

建物の売却は住宅・事務所にかかわらず課税売上です。また原状回復費用として退去者から受け取った費用も課税の対象となります。

原則的な仕入控除税額の計算方法

収益のほとんどを家賃が占めている賃貸業者の場合、消費税は納付も還付もしないのが一般的です。課税売上高が1,000万円を超えないため免税事業者となるでしょう。賃貸業では修繕費や広告費、仲介手数料や工事費など経費に関わる多くの消費税を支払っています。ただし課税事業者を選択したとしても還付を受けることはできません。

なぜなら仕入税額控除は課税売上に関する経費分しか認められないからです。ただし課税売上高が5億円以下かつ以下に説明する課税売上割合が95%以上の場合、支払った消費税の全額を控除できます。

課税売上割合が大事

課税売上割合とは、全売上高に占める課税売上の割合のことをいいます。例えば年間の賃料収入の内訳が住宅家賃3,500万円、事務所テナント料1,500万円だったとすると、課税売上割合は30%です。課税売上割合が95%未満(または課税売上高が5億円を超える)の場合、仕入控除税額の計算は2種類あります。

個別対応方式

個別対応方式の場合は、消費税を支払う際に以下の3つの経費に分けることが必要です。

  • 1 課税売上に対応する経費
  • 2 非課税売上に対応する経費
  • 3 共通する経費

このうち仕入控除税額は「1+3×課税売上割合」となります。つまり2の非課税売上に関する経費に発生する消費税は控除できないわけです。

一括比例方式

一括比例配分方式の場合、仕入税額控除税額は「支払った消費税×課税売上割合」です。以下に計算例を挙げます。

  • 売上:住宅家賃3,500万円(非課税)
  • 事務所テナント料:1,500万円(課税)
  • 課税売上割合:30%
  • 受け取った消費税:150万円
  • 経費:600万円(住宅の貸し付けに関するもの)、350万円(事務所に関するもの)、30万円(事務処理費用など共通してかかった経費)
  • 支払った消費税:60万円(住宅)、35万円(事務所)、3万円(共通経費)

個別対応方式の場合、仕入控除税額は「35万円+3万円×30%=35万9,000円」です。これを150万円から差し引き、納税額は114万1,000円になります。一括比例配分方式の場合、仕入控除税額は(60万円+35万円+3万円)×30%=29万4,000円です。同様に受け取った消費税150万円から差し引くと納税額は約120万6,000円となります。

ただし課税売上割合が3年間のうちに大きく減少した場合は、調整が入るため注意しましょう。この結果、初年度に建物に関する消費税の還付を受けても2年後に返還しなければならなくなることもあるのです。前述した「一度課税事業者を選択すると3年間免税事業者に戻れないルール」との合わせ技によって還付を受けることが難しくなっています。

一定割合で納税額から控除できる簡易課税制度

仕入税額控除の計算には、上記した全額控除・個別対応方式・一括比例配分方式のほか、簡易課税制度と呼ばれる方法があります。前々年度の課税売上高が5,000万円以下だった場合に適用可能です。簡易課税制度は実際に支払った消費税を計算せず、受け取った消費税に一定率をかけて仕入控除税額を計算します。

この割合をみなし仕入れ率といいます。みなし仕入れ率は業種によって異なり不動産賃貸業の場合は第6種事業となり40%です。先ほどの例の場合、仕入控除税額は150万円(受け取った消費税)×40%(みなし仕入れ率)=60万円となり納付税額は150万円-60万円=90万円です。適用するルールによって納税額は大きく変わるといえます。

計算方法によって納付税額が変わる

住宅の貸し付けを中心とする不動産賃貸業においては、消費税についての話題は少ないでしょう。しかし大規模な事務所ビルや民泊、駐車場経営などを経営している場合は、消費税を納めなければならないケースがあります。税額の計算方法は数種類ありどれを選ぶかで納付税額も変わってくるため専門家のアドバイスを受けながら判断してください。

事業者が知っておくべき消費税の仕組みに関するよくある質問

Q.事業者にとっての消費税の基本は?

事業者にとって消費税の基本は「預かり、差し引き、納める」。 受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて納付しています。

Q. 不動産賃貸業における課税売上とは?

不動産賃貸業で課税売上高となるのは主に事務所の賃料です。 建物の売却は住宅・事務所にかかわらず課税売上です。また原状回復費用として退去者から受け取った費用も課税の対象となります。

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