土地がメインの相続税対策。小規模宅地の評価減を理解しよう
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木崎涼
木崎涼
大手税理士法人で多数の資産家の財務コンサルティングを経験。ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパートの資格を持ちながら、執筆業を中心に幅広く活動している。

土地を所有していると、相続の際に多額の相続税がかかることがあります。遺族に負担をかけないためにも、早めに相続税対策を講じるべきです。ここでは、小規模宅地等の評価減を活用して相続税対策を行う方法について、わかりやすく解説します。

<目次>
1.土地を所有しているなら相続税対策は必須

2.小規模宅地等の特例とは

3.小規模宅地などの特例が適用される宅地の条件
3-1.居住用の宅地(計算例)
3-2.事業用の宅地(計算例)
3-3.貸付事業用の宅地(計算例)

4.適用される人の条件
4-1.被相続人の自宅の場合の対象者
4-1-1.配偶者
4-1-2.同居の親族
4-1-3.被相続人と同居していない親族(家なき子特例)
4-2.被相続人の事業用地の場合の対象者

5.小規模宅地の特例の注意ポイント
5-1.被相続人が老人ホームに入居した場合
5-2.二世帯住宅の場合

6.資産の組み換えで小規模宅地等の評価減を使いこなす
・小規模宅地等の特例を受けるために提出する書類

1.土地を所有しているなら相続税対策は必須

相続税,小規模宅地
(画像=Bubbers BB/Shutterstock.com)

土地を所有している人にとって、相続税は悩みの種でしょう。相続財産が現預金のみであれば、残高がそのまま相続税評価額になり、相続した現預金で納税できるため、大きな問題は発生しにくいです。一方で土地は評価額がわかりにくく、相続した場合は納税資金を確保しなければなりません。

納税資金(現金)が確保できなければ、相続税の納税のために家や土地を手放さなければならないケースもあります。日本には、このような悩みを抱えている人が多くいます。土地を所有している場合は、遺族に負担をかけないためにも、早めに相続税対策を講じておきたいところです。

土地には、相続税上の優遇制度がいくつかあります。有名なのが、小規模宅地等の特例です。名前はよく耳にしますが、具体的な適用要件については知らない人が多いのではないでしょうか。小規模宅地等の特例の内容を正しく理解することで、相続税を軽減することができるかもしれません。

2.小規模宅地等の特例とは

相続税,小規模宅地
(画像=beeboys/Shutterstock.com)

小規模宅地等の特例とは、土地の評価額を大幅に下げる相続税の優遇税制のことです。

住んでいる土地や事業を営んでいる土地を引き継いだ場合、小規模宅地等の特例を適用することで、相続税評価額を50~80%引き下げられます。小規模宅地等の評価減の対象は、以下の3つです。

1.居住用の宅地等
2.事業用の宅地等
3.貸付事業用の宅地等

それぞれ要件が定められているため、小規模宅地等の特例を適用したいと思うなら、生前にきちんとシミュレーションを行い、相続税対策を講じることが大切です。

3.小規模宅地などの特例が適用される宅地の条件

相続税,小規模宅地
(画像=beeboys/Shutterstock.com)

続いて、小規模宅地等の特例が適用される土地の条件を見ていきましょう。

3-1.居住用の宅地(計算例)

居住用の宅地とは、被相続人が生前に自宅として使っていた土地のことです。配偶者や同居していた親族が土地を相続した場合、330平方メートルまでは80%の評価減を受けられます。計算例は以下のとおりです。

<自宅の土地を配偶者が相続したケース>
土地の面積:400平方メートル
土地の評価額:4,000万円

小規模宅地等の特例の対象となる面積:330平方メートル
小規模宅地等の特例の対象となる評価額:3,300万円
(4,000万円÷400平方メートル×330平方メートル=3,300万円)

小規模宅地等の特例を適用した場合の評価減
3,300万円×80%=2,640万円

小規模宅地等の特例を適用した場合の土地の評価額
4,000万円-2,640万円=1,360万円

居住用の宅地等の評価減が適用される面積は、2015年1月1日より240平方メートルから330平方メートルに拡大されています。今後も、要件が変更されるかもしれません。変更されると相続税額が変わるため、しっかり情報をチェックしましょう。

3-2.事業用の宅地(計算例)

被相続人が事業を行っていた土地で相続人が事業を引き継ぎ、相続税の申告期限まで事業を継続していれば、400平方メートルまでは80%の評価減を受けられます。計算例は以下のとおりです。

<魚屋を営んでいた事業用の土地を子が相続し、事業を継続しているケース>
土地の面積:500平方メートル
土地の評価額:5,000万円

小規模宅地等の特例の対象となる面積:400平方メートル
小規模宅地等の特例の対象となる評価額:4,000万円
(5,000万円÷500平方メートル×400平方メートル=4,000万円)

小規模宅地等の特例を適用した場合の評価減
4,000万円×80%=3,200万円

小規模宅地等の特例を適用した場合の土地の評価額
5,000万円-3,200万円=1,800万円

3-3.貸付事業用の宅地(計算例)

被相続人が貸付事業をしていた土地で相続人が貸付事業を引き継ぎ、相続税の申告期限まで事業を継続していれば、200平方メートルまでは50%の評価減を受けられます。賃貸マンションはもちろん、駐車場を貸している場合も対象になります。

計算例は以下のとおりです。

<駐車場として貸していた貸付事業用の土地を子が相続し、貸付を継続しているケース>
土地の面積:300平方メートル
土地の評価額:3,000万円

小規模宅地等の特例の対象となる面積:200平方メートル
小規模宅地等の特例の対象となる評価額:2,000万円
(3,000万円÷300平方メートル×200平方メートル=2,000万円)

小規模宅地等の特例を適用した場合の評価減
2,000万円×50%=1,000万円

小規模宅地等の特例を適用した場合の土地の評価額
3,000万円-1,000万円=2,000万円

4.適用される人の条件

相続税,小規模宅地
(画像=Shutter_M/Shutterstock.com)

小規模宅地等の特例は、誰が相続するかによって適用されるか否かが決まります。遺産分割の仕方によっては小規模宅地等の特例が適用されず、相続税が高額になる可能性があります。

自宅の土地・事業用の土地・貸付用の土地のそれぞれについて、対象者の要件をチェックしましょう。

4-1.被相続人の自宅の場合の対象者

まず、被相続人の自宅である「居住用の宅地」を相続する場合の対象者について解説します。

・4-1-1. 配偶者
配偶者には、特別な要件はありません。配偶者が被相続人の自宅の土地を相続した場合、小規模宅地等の特例が適用されます。

・4-1-2.同居の親族
生前から被相続人と同居していた親族が被相続人の自宅の土地を相続した場合は、以下の2つの要件を満たす必要があります。

1.相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続き居住すること。
2.相続開始時から相続税の申告期限まで土地を保有していること。

例えば、相続開始後に転居した場合や、相続税の申告期限を待たずに土地を売却してしまった場合などは、小規模宅地等の特例は適用されません。

・4-1-3.被相続人と同居していない親族(家なき子特例)
被相続人に配偶者や同居の法定相続人がいない場合、別居の親族が自宅の土地を相続することもあるでしょう。そのようなケースでも、以下の要件を満たせば小規模宅地等の特例が適用されます。

1.被相続人に配偶者、同居の相続人がいないこと。
2.相続開始前3年以内に、自分や配偶者の持ち家に住んだことがない。
3.相続開始前3年以内に、3親等以内の親族の家や、特別な関係の法人が持つ家に住んでいない。
4.相続税の申告期限まで土地を有していること。

4-2.被相続人の事業用地の場合の対象者

被相続人が事業を行っていた土地で相続人が同様の事業を継続する場合は、小規模宅地等の特例が適用されますが、以下の要件を満たさなければなりません。

1.相続開始の3年前より以前からその土地で事業を営んでいること。
2.相続人が相続税の申告期限まで事業を継続していること。
3.相続人が相続税の申告期限まで土地を保有していること。

不動産賃貸などの貸付事業についても、同じ要件で小規模宅地等の特例を適用できます。

5.小規模宅地の特例の注意ポイント

相続税,小規模宅地
(画像=Jirapong Manustrong/Shutterstock.com)

小規模宅地等の特例が最も多く利用されるのは、被相続人の自宅の土地を相続するケースです。ここからは、自宅の土地を相続する際に小規模宅地等の特例を適用する場合の注意点について解説します。

5-1.被相続人が老人ホームに入居した場合

自宅の土地を相続する際に小規模宅地等の特例を利用する場合、以前は相続開始の直前に自宅として使っていなければなりませんでした。しかし、最近は老人ホームに入居するケースも増えてきており、この要件が実情に合っていないという批判が出てきました。

そこで制度が変わり、老人ホームに入居していた場合でも、以下の要件を満たせば小規模宅地等の特例が適用されるようになりました。

1.被相続人が要介護認定を受けていること。
2.自宅を貸し出していないこと。
3.都道府県知事の届出が提出された老人ホームに入居していること。

5-2.二世帯住宅の場合

二世帯住宅の場合、相続人が「同居していた」と主張しても、税務署に認められなければ小規模宅地等の特例は適用されません。同居が認められないのは、以下のようなケースです。

1.敷地は同じだが、建物が別の棟に分かれており、それぞれに親世帯・子ども世帯が住んでいる。
2.建物は一体だが、親世帯・子ども世帯の部屋は完全に分離されており、行き来ができない。
3.子ども世帯が親世帯に賃料を支払っている。

小規模宅地等の特例のことを考えるなら、二世帯住宅を建てる時に、お互いの部屋を行き来できるように設計することが大切です。

6.資産の組み換えで小規模宅地等の評価減を使いこなす

小規模宅地等の特例では、当然ながら土地そのものの評価額が高いほど、評価減の金額も大きくなります。そのため、「二世帯住宅に建て替える」「引っ越して古い自宅は第三者に貸す」など、資産の組み換えを行ったほうが、相続税対策として有利になる可能性が高いでしょう。

土地の評価額は、路線価によって決まります。路線価は国税庁のホームページで確認することができ、地価の変動に応じて毎年改定されます。

路線価に土地の面積を掛ければ、おおよその土地の相続税評価額を知ることができます。なお、土地の形や道路との接し方によっては、評価額に微調整を加える必要があるので注意しましょう。

・小規模宅地等の特例を利用するための提出書類
被相続人の戸籍謄本
遺言書または遺産分割協議書の写し
相続人全員の印鑑証明
本人確認書類(マインナンバーカードのコピーなど)

その他、要件を満たすことを証明するための書類が必要です。例えば、老人ホームに入居した場合は要介護認定証、事業用の土地なら3年を超えて事業を行っていたことを明らかにする書類(法人や所得税の申告書など)が必要になります。

小規模宅地等の評価減は減額割合が非常に大きいため、数百万円から数千万円の相続税の節税が実現することもあります。土地を複数所有しているなら、資産の組み換えも含めて早めに検討し、相続税対策に着手することが大切です。

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