不動産投資は確かに節税になりますが、節税だけを目的に始めると、損をしてしまう可能性があります。今回は、不動産投資で所得税・相続税を節税したいと考えている人に向けて、6つの税務リスクについて解説していきます。
1.なぜ不動産投資が節税に?仕組みを解説
「不動産投資は節税になる」と聞いたことがある人は多いでしょう。この場合の節税は、所得税と相続税を指しています。まず、不動産投資がなぜ所得税・相続税の節税になるのかを解説します。
1-1.不動産投資の収益(所得)を減らす →所得税の節税
不動産投資では、不動産を貸して家賃収入を得ます。家賃収入は経費を差し引いた上で、不動産所得として申告しなければなりません。
給与所得や不動産所得など1年間で得られた所得を合算して、支払うべき所得税を計算し申告することを「確定申告」といいます。不動産所得が赤字だった場合は、確定申告の際に給与所得など他の所得と相殺することができます。
たとえば給与所得が500万円、不動産所得がマイナス50万円だとすると、合算した所得は450万円です。所得を50万円圧縮できた分、納めるべき所得税が少なくなります。これが、不動産投資が所得税の節税になる理由です。
1-2.現金ではなく不動産にすることで評価額を減らす →相続税の節税
不動産投資は、相続税対策にもなります。不動産投資が相続税対策になる理由は、財産の評価方法の違いにあります。
現預金は残高がそのまま相続税評価額になりますが、不動産は路線価や固定資産税評価額を用いて評価されます。土地は時価の8割程度、建物は時価の7割程度まで評価額を圧縮できます。
たとえば3億円を現預金で保有していると、相続税評価額は3億円です。一方2億円で土地を、1億円で建物を買った場合、相続税評価額は以下のようになります。
2億円×8割=1億6,000万円
1億円×7割=7,000万円
合計 2億3,000万円
ケースによって具体的な計算方法は異なりますが、上記の例では相続財産を7,000万円も圧縮できたことになります。また不動産を第三者に貸すことで、さらに財産の評価額を下げることができます。
1-3.不動産投資で節税できるのは所得税(住民税)と相続税(贈与税)
不動産投資で節税できるのは、所得税と相続税です。また、住民税は確定申告書の所得をもとに計算されるため、結果的に住民税も節税できます。さらに、不動産投資で財産を圧縮することで贈与の必要がなくなれば、間接的に贈与税も節税できます。
2.節税するための計算方法
続いて、具体的な計算方法について詳しく解説していきます。
2-1.所得税の計算方法
収入が給与しかない場合は、会社が年末調整で所得税を計算してくれます。しかし、給与以外に収入があり、一定の要件を満たす場合は確定申告をしなければなりません。
確定申告では、給与所得や不動産所得など1年間で得られた所得を合算し、所得税率をかけて所得税を計算します。所得税の計算の流れは、以下のとおりです。
1.総所得金額を計算する
まず、給与所得と不動産所得をそれぞれ計算し、合計して総所得金額を求めます。
給与収入-給与所得控除=給与所得
家賃収入-経費=不動産所得
不動産所得+給与所得=総所得金額
不動産所得の経費には、火災保険料や固定資産税、減価償却費、修繕費や税理士費用などがあります。経費が多いほど不動産所得は圧縮されるため、節税効果が高くなります。
2.課税所得金額を計算する
次に、1年間で支払った健康保険料や生命保険料などの所得控除を差し引きます。
総所得金額-所得控除=課税所得金額
3.所得税を計算する
最後に、課税所得金額に所得税率をかけて所得税を計算します。所得税率は5%から45%まであり、所得が大きくなるほど税率が高くなります。
課税所得金額×所得税率=所得税
2-2.相続税の計算方法
次に、相続税の計算方法を解説します。相続税の計算の流れは、以下のとおりです。
1.基礎控除を計算する
相続税には基礎控除があるため、基礎控除の範囲内であれば、相続で財産を取得しても相続税はかかりません。基礎控除の計算式は以下のとおりです。
3,000万円+600万円×法定相続人の人数
たとえば、妻と子3人の4人が法定相続人の場合、基礎控除は5,400万円です。まずは財産総額が基礎控除を超えているかどうかを計算し、超えているようであれば相続税の計算に移ります。
2.相続財産や保険金、葬儀費用などを洗い出す
現預金、不動産、有価証券、ゴルフ会員権など、すべての相続財産を洗い出します。見落としがちな項目に、自社株や骨とう品、生命保険金や死亡退職金などがあります。また、借入金などマイナスの財産もすべてピックアップしましょう。
3.課税遺産総額を計算する
洗い出した財産を、相続税のルールに則って評価します。その後、非課税対象財産や葬儀費用などを差し引き、3年以内の贈与財産を足して、課税価格を出します。課税価格から基礎控除を差し引くと、課税遺産総額が求められます。
相続財産-非課税財産-葬儀費用など+3年以内の贈与財産=課税価格
課税価格-基礎控除=課税遺産総額
相続税を節税するためには、課税遺産総額を少なくすることが大切です。課税遺産総額に影響を与えるのは、財産の内容です。相続税では、財産の種類によって評価方法が異なるからです。
そのため現預金を不動産に換えるなど、財産の組み換えを行うことで相続税を節税できます。
4.相続税の総額を計算する
課税遺産総額を、法定相続人が法定相続分に応じて取得したとして、相続税を計算します。相続税率は10%から55%まであり、取得した財産の金額が大きくなるほど適用される税率が高くなります。算出した税額を合計したものが、相続税の総額です。
法定相続分に応じた取得金額×相続税率=算出税額
各人の算出税額の合計額=相続税の総額
5.各人の相続税額を計算する。
最後に、相続税の総額を、実際の相続財産の取得割合に応じて按分します。こうして、各人が納付すべき相続税額が決定します。
相続税の総額×各人の相続財産の取得割合=各人の相続税額
3.節税する際の6つのリスク
続いて、不動産投資で所得税・相続税を節税する際に気をつけたい6つのリスクを紹介します。
3-1.減価償却の節税効果は期間限定
不動産投資では、建物の購入費用を分割し、減価償却費として毎年経費にしていきます。建物は経年劣化するため、購入費用を減価償却費として経費計上することが認められています。土地は経年劣化しないため、減価償却は認められていません。
減価償却費は「キャッシュが出ていかないのに、経費計上できるおいしい経費」とも言われ、不動産所得を圧縮する効果があります。
しかし、減価償却費は永遠に計上できるわけではなく、耐用年数に応じた期限があります。期限を迎え、物件の購入費用をすべて経費化してしまうと、以後はその資産について減価償却をすることはできません。
減価償却費を計上できる期間は不動産所得が小さくなるため、あまり税負担を感じないかもしれません。しかし減価償却が終わると、税負担が一気に重くのしかかってきます。
3-2.黒字になったら一気に増税
不動産投資が好調なのは良いことですが、所得が大きくなると税金が増えます。日本の所得税は累進課税制度を採用しており、所得金額によって以下のような税率が適用されます
【課税される所得金額】 | 【適用税率】 |
---|---|
195万円以下 | 5%(控除額0円) |
195万円超330万円以下 | 10%(控除額9万7,500円) |
330万円超695万円以下 | 20%(控除額42万7,500円) |
695万円超900万円以下 | 23%(控除額63万6,000円) |
900万円超1,800万円以下 | 33%(控除額153万6,000円) |
1,800万円超4,000万円以下 | 40%(控除額279万6,000円) |
4,000万円超 | 45%(控除額479万6,000円) |
課税される所得金額が850万円だった人が、不動産投資を始めたことで200万円増えたケースを考えてみましょう。この場合、不動産から収益を得たことによって、適用される税率は23%から33%に上がります。その結果、所得税額は131万円前後から193万円前後に増えます。
所得税の申告内容は住民税や国民健康保険料、保育料にも影響します。住民税の所得割(税率10%)が20万円増える上に他の公的負担も増えるため、年間の公的負担が合計で100万円以上増える可能性があります。これでは、収入が増えても生活は楽になりません。
3-3.青色事業専従者が常にOKとなるわけではない
不動産投資を行う人の多くは、節税メリットの大きい青色申告を検討します。青色申告のメリットの1つである「家族を青色事業専従者とし、払った給料を必要経費にできる」を狙って、家族を青色事業専従者とする人が多いのですが、状況によっては「この家族は青色事業専従者の要件を満たしていない」とされることがあります。
青色事業専従者は家族なら誰でもOKではなく、15歳以上という年齢制限や他の仕事をしていないという要件も満たさなくてはなりません。これらの要件を満たしていたとしても、家族の事業従事の程度が僅少な場合、「専従の程度が弱い」として否認される可能性があります。
3-4.入居者がいなければ評価額が上がる
不動産投資の税務リスクは、所得税だけではなく相続税・贈与税にもあります。
不動産投資では、2段階に分けて財産を圧縮できます。まず、現預金を不動産に換えることで、財産の評価方法が変わることから相続財産を圧縮できます。次に、不動産を第三者に賃貸することで、借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じて財産の評価額を下げられます。
ここで問題になるのが、賃貸割合です。賃貸割合は、簡単に言えば入居率のことです。入居者がいると、簡単に不動産を売買することができません。そのため、入居率が高いほど財産の評価額は低くなるのです。
逆に入居率が下がれば、評価額は上がってしまいます。今後はさらに少子高齢化が進むため、入居率の維持は難しくなる可能性が高いです。
3-5.相続開始時の評価が購入時を上回ることも
相続税や贈与税を計算する際に財産評価の指標として用いられる路線価は、公示地価の8割程度を目安に国税局や税務署が算出しています。路線価は実勢価格と連動しているため、相続時の路線価が購入価格を上回っている可能性は十分あります。
つまり、「安いから」といって安易に賃貸物件を買うと、後々値上がりして相続税負担に苦しむ可能性があるのです。
「路線価での評価額は実勢価格の8割程度だから安くなるはず」という言葉を鵜呑みにすると、「時価と連動している路線価は高くなる可能性がある」という事実を忘れてしまうため注意が必要です。
3-6.赤字経営で銀行の信用度が落ちる
不動産所得が赤字だと、確かに所得税を節税できます。しかし赤字が続くと、銀行からは「この投資家は不動産投資で利益を出せていない」と思われ、信用度が下がります。
そもそも不動産投資は事業経営である以上、赤字が続いていいということはありません。給与にかかる所得税を節税できたとしても、事業でそれ以上に損をしているのです。
減価償却費が多い初年度や、多額の修繕費を計上した年に赤字になるのは問題ありませんが、別の理由で赤字が続くようであれば、節税以前に不動産経営そのものを見直したほうがいいでしょう。
4.不動産投資をしない人、している人の税金
最後に、不動産投資による節税事例を紹介します。初年度に、減価償却費を計上したことで100万円赤字が出たと仮定して試算しました。なお、所得控除は社会保険料108万円+基礎控除48万円としています。復興特別所得税は加味していません。
<年収700万円の会社員のケース>
不動産投資なし | 不動産投資あり | |
不動産所得 | -100万円 | |
給与所得 | 510万円 | 510万円 |
総所得 | 510万円 | 410万円 |
所得控除 | 156万円 | 156万円 |
課税所得 | 354万円 | 254万円 |
所得税 | 28万500円 | 15万6,500円 |
住民税 | 35万4,000円 | 25万4,000円 |
税金合計 | 63万4,500円 | 41万500円 |
不動産投資をしている場合としていない場合を比べると、所得税・住民税を合わせて約22万円の節税効果があることがわかります。
5.まとめ
不動産投資は、上手く活用すれば所得税・相続税の節税になります。しかし、税務リスクを理解せずに不動産投資を始めると、後悔することになりかねません。
また、節税だけを目的に不動産投資を始めて赤字経営に陥ってしまうと、かえって損をしてしまいます。不動産投資を始める際は信頼できる専門家に相談し、節税効果を十分シミュレーションした上で、投資に踏み切ることが大切です。
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