相続税対策の一つとして簡単に行えて効果が高いのが養子縁組です。特に多いのは、孫を養子にするパターンです。今回は相続税対策で養子縁組を行うことでどんなメリットがあるのか、注意点も合わせて解説します。
養子がなぜ相続税対策になるのか?
富裕層の中でよく使われている相続対策が養子縁組です。なかでも自分の孫や子どもの配偶者を養子にするケースはよくあります。養子縁組が相続税対策になる理由は、法定相続人を増やすことができるからです。相続税の計算では、まず相続税の対象となる財産の総額を特定します。そのうえで財産の総額から基礎控除額を差し引き、残った額(課税遺産総額)に税率を掛けて税額を割り出します。
2019年10月時点の相続税における基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。したがって法定相続人の数が多ければそれだけ基礎控除額が増え課税遺産総額を少なくすることができるため、相続税額の軽減が期待できます。また相続人が増えれば各相続人が取得する遺産が減るため、相続税の計算の際に低い税率を適用できる可能性があることもメリットです。
各相続人の相続税を計算するには、まず課税遺産総額を計算し課税遺産総額を法定相続人で分けたとして各人の取得分を計算します。例えば課税遺産総額が2億円で相続人が妻と子ども2人の計3人なら法定相続分は妻が2分の1の1億円、子ども2人がそれぞれに4分の1の5,000万円ずつです。この金額に税率を掛けて支払うべき税率を求めます。
下の表のように取得金額1,000万円以下は10%、3,000万円以下は15%と超過累進課税になっているのが相続税の特徴です。したがって養子縁組によって法定相続人の数が増え一人ひとりの取得金額が減り、低い税率が適用されることになればトータルの相続税額も減ることになります。課税遺産総額や法定相続人の数にもよっても異なりますが養子縁組により法定相続人が1人増えたことによってトータルでの相続税額が数千万円減ることもあるでしょう。
◆相続税の速算表(2019年10月時点)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
また孫を養子にした場合は、相続の回数を一代飛ばせるという点がメリットです。養子縁組をしない場合では「親→子ども→孫」と一代ずつ遺産を相続するので計2回の相続税の支払いがあります。一方で孫を養子にした場合は、相続の回数を一代飛ばすことができるので相続税の支払いも1回で済むわけです。
養子縁組の手続きは簡単ですが上限あり
「いくら節税できるといっても養子縁組なんて手続きが難しいのでは?」と思うかもしれませんが、決してそんなことはありません。市区町村の役場に行き戸籍謄本などと合わせて「養子縁組届」提出するだけです。手数料などはかかりません。養子縁組は紙1枚でできる非常に簡単な相続税対策といえるでしょう。
なお普通養子縁組の場合、養子になったからといって実の親との親子関係が解消されるわけではありません。つまり養子になった人は、養親からと実親から2回相続を受ける権利を持つわけです。養子自体には制限はなく何人でも養子にすることができます。では、たくさん養子を増やせばそれだけ節税になるのかというと、そうではありません。
なぜなら法定相続人の数に含めて計算できる養子の数は「被相続人に実子がいる場合は1人まで」「被相続人に実子がいない場合は2人まで」と制限されているからです。
養子縁組のデメリット
相続税対策として簡単かつ効果的な養子縁組ですがデメリットもいくつかあります。孫を養子にした場合は「相続税額の2割加算」の対象になってしまうのです。相続税には「被相続人の一親等の血族および配偶者」以外の人が財産を取得した場合には、その人の相続税額が2割増しになるというルールがあるため、孫養子はこれが該当してしまいます。
また法定相続人の数が1人増やすことで不要な相続争いの種を作ってしまう可能性があることもデメリットです。相続税対策として養子縁組を検討する際は、これらのメリット・デメリットをよく把握したうえで他の相続人とも相談したうえで判断することが大切になります。
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