空室対策におけるターゲット層と設備投資
(画像=Jirsak/Shutterstock.com)
本間貴志
本間貴志
ビジネス書に特化した編集会社のサラリーマン・ライターを経て、資産運用や税務の分野を専門とするライターとして活動。自主管理で賃貸経営をする不動産投資家の顔も持つ。

近年、日本全体で賃貸物件の空室率は上昇し続けています。高度成長期などでは、労力を伴うことなく入居者が決まったといいます。現在は、人口が減少しているにもかかわらず賃貸物件の供給数は増えており、空室率の上昇は必然なのでしょう。

そのような状況の中、空室対策の重要性は増していくばかりです。「それなら、誰もが憧れるような立地の物件だけを購入すればいい」と考える人もいるかもしれませんが、そのような立地の物件は価格が高く、利回りが低いため、キャッシュがあまり残らないケースが多いです。

このことから、ある程度競合がいるエリアの物件を購入する不動産投資家がほとんどですが、周辺物件との競合状況をリサーチし、時には設備投資を行い、空室対策を行っていくことも必要です。今回は、この空室対策と効果的な設備投資についてお伝えしたいと思います。

目次

  1. 1.自分の物件に合うペルソナをリサーチ
  2. 2.ペルソナが求める設備投資をリサーチ
  3. 3.コストパフォーマンスを重視した設備投資
  4. 4.具体的な空室対策のための設備
    1. 4-1.無料インターネットの提供
    2. 4-2.セキュリティに関連する設備
    3. 4-3.宅配ボックス
    4. 4-4.追い炊き機能
  5. 5.空室対策のための募集方法や条件の変更
    1. 5-1. 敷金・礼金なしやフリーレントの活用
    2. 5-2.入居条件をゆるめる
    3. 5-3.ネット広告の強化で充実した物件情報を
    4. 5-4.家賃を下げる、全面リフォームは最後の手段
    5. 5-5.管理会社の切り替えをする
  6. 6.まとめ

1.自分の物件に合うペルソナをリサーチ

空室対策を行う上で最初に考えるべきことは、自分の物件のペルソナを決めることです。ここで言うペルソナとは、ターゲットにする入居者の具体的な人物像です。女性と男性では部屋に求めるものも違いますし、20代と60代でも違うはずです。

ターゲットを決めるにあたっては、変えられない要素を基に検討していくことが重要です。具体的には、その物件の立地や建物構造、間取りなどです。例えば、駅徒歩5分の物件と15分の物件ではターゲットは変わるでしょうし、RCマンションと木造アパートでも変わるはずです。ペルソナ設定は自分だけで考えるのではなく、物件周辺の仲介会社や管理を委託している管理会社に相談して、しっかり議論した上で決めるようにしましょう。

2.ペルソナが求める設備投資をリサーチ

ペルソナが決まったら、そのペルソナが喜ぶ設備投資や、ペルソナに合った空室対策を考えていきます。設備投資については、管理会社から入居者に好まれる設備をヒアリングしたり、入居者の人気設備ランキングを参考にしたりしながら、その項目をリストにするとよいでしょう。
次に、項目ごとに費用を計算します。なぜなら費用が分からないと、コストパフォーマンスを判断ができないからです。このように、効果的な設備投資を考える上では、ペルソナ設定が非常に重要です。

例えば、オートロックがない物件にオートロックの設置を検討するとします。一般的には物件のバリューアップにつながりますが、ペルソナが家賃予算4万円程の若い男性だった場合、防犯設備を求める人は多くなく、効果が弱い設備投資となってしまうかもしれません。

「一般的に空室対策に有効とされる設備投資」という観点ではなく、自分が設定したペルソナに対して有効だと思われる設備投資のリストを作り、それをもとに設備投資を検討していきましょう。

3.コストパフォーマンスを重視した設備投資

もうひとつ、設備投資を行う上で考える必要があるのが、コストパフォーマンスです。空室対策は、お金をかければいいというものではありません。

3点ユニットの部屋をバス・トイレ別にしたからとって、必ずしも空室対策に有効とは限らないのです。
まずは、お金のかからない空室対策から着手することをお勧めします。例えば、部屋の一面にアクセントクロスを施すぐらいであれば、1万円前後など(業者による)手軽なコストでできますし、部屋の写真を広角レンズの一眼レフで撮影するだけでも、入居者が受ける印象はかなり変わるはずです。

内見した人から入居の申し込みが入りやすいように、部屋の設備にPOPをつけたり、芳香剤を置いたりすることが効果的なこともあります。誰に対しても、どんな物件でも絶対に結果が出る空室対策というものはありません。コストがあまりかからないことから段階的に進めて、物件のバリューアップを図りつつ、空室対策を進めていくのが賢いやり方と言えるでしょう。

4.具体的な空室対策のための設備

さてここから先は、空室対策に効果的な設備例をご紹介していきます。最近の入居者に人気の設備は次の通りです。ニーズのある設備の中から、ペルソナに合ったものを選びましょう。

4-1.無料インターネットの提供

単身者向け・ファミリー向けの物件を問わず、空室対策に効果的なのが「無料インターネットの提供」です。全国賃貸住宅新聞社が毎年実施する「入居者に人気の設備ランキング(2019年)」では、単身者向け・ファミリー向けともに「インターネット無料」が1位です。

インターネット無料の賃貸物件に住むことで、入居者は2つのメリットを得られます。1つ目は通信料コストが削減できることです。例えば、フレッツ光(集合住宅向け)に加入すると、一般のプランでは月額約2,000円〜3,000円程度がかかります。併せて、初期の工事費が必要な場合、15,000円程度の出費もかかります。インターネット無料の賃貸物件に住むと、これらの費用が一切かからないのでお得です。

もう一つのメリットは契約の手間が省けることです。引っ越し後にインターネット契約をしようとすると、申込手続きや工事立ち会いなどの手間を要します。インターネット無料の賃貸物件に住めばこれらの手間が一切かからないのも魅力です。

4-2.セキュリティに関連する設備

入居者に人気の設備としては、エントランスのオートロックやホームセキュリティも単身者向け・ファミリー向けともにランキングでトップテンに入っています。とくに女性の入居者や子供のいるファミリー層にとって、セキュリティに関連する設備の充実は大きな安心材料です。

4-3.宅配ボックス

宅配ボックスも最近入居者から求められる設備です。「入居者に人気の設備ランキング(2019年)」で見ると、単身者向けでは3位、ファミリー向けでは6位にランクインしています。コロナ禍をきっかけにEC(電子商取引)のニーズが高まったことから宅配ボックスのニーズは今後も続くと考えられます。

4-4.追い炊き機能

昔も今もファミリー層に根強い人気の設備が「追い炊き機能」。入居者に人気の設備ランキングでは2017年〜2019年の3年間常に上位をキープしています。入居者にとっては追い炊き機能のあるなしでお風呂のガス代などのコストが大きく変わります。同じ家賃の似たような部屋なら、追い炊き機能のある賃貸物件が圧倒的に有利といえます。

5.空室対策のための募集方法や条件の変更

空室対策は、設備導入だけではありません。入居者の募集方法や条件を変えるのも効果的です。こちらも同様にペルソナに沿って適切なメニューを選択しましょう。

5-1. 敷金・礼金なしやフリーレントの活用

競合が激しいエリアの場合は、敷金・礼金なし、さらにはフリーレント(入居直後の家賃なし)を採用するのも一案です。フリーレント期間はエリアの競合状態によって1〜3ヶ月に設定するのが一般的。なかにはこれ以上のフリーレントを設定する物件もあるようですが、長期に設定しすぎると利回り低下の原因になります。

5-2.入居条件をゆるめる

入居者に人気の設備導入やフリーレントなどと共に、入居条件ゆるめるのも空室対策に有効です。一例では、ペット可・楽器可・ルームシェア可・外国人入居可などです。入居条件をゆるめることで家賃アップが見込める場合もあります。

5-3.ネット広告の強化で充実した物件情報を

最近の入居者は、パソコンやスマホで賃貸物件を探すのが主流です。一定の入居者ニーズのある物件であれば、ネットでの露出を増やせば内見申込が増える可能性が高いです。媒体掲載料はメディアや枠によって異なります。まずはどれくらいのコストがかかるのか、管理会社に確認してみましょう。

5-4.家賃を下げる、全面リフォームは最後の手段

入居者に人気の設備導入、あるいは、上記で紹介した施策を取り入れても空室が改善できない場合は、家賃の値下げも検討すべきでしょう。もともと相場よりも割高な設定のときは、はじめの段階で家賃を見直すケースがあってもよいかもしれません。また抜本的な改善策では、リフォームやリノベーションで物件を刷新する手もあります。日本人は真新しいものが好きな人が多いので、大きな効果が期待できます。費用と家賃のバランスを考えながら検討しましょう。

5-5.管理会社の切り替えをする

上記の対策を進める前に、管理会社を切り替える選択もあります。入居者募集を得意にする管理会社に変えただけで、客付けがスムーズに進むこともあります。ただし、切り替えの際は契約解除の内容がどうなっているかを確認し、それを遵守しながら慎重に引き継ぎを進めましょう。

6.まとめ

ここでは、空室対策におけるターゲット(ペルソナ)の設定方法と、具体的な空室対策について解説してきました。空室対策を感覚でやってしまうと、費用をかけたのに効果が上がらないといった状況になりやすいです。まずはペルソナをしっかり想定し、それに合った設備導入や募集方法の変更を進めるのが効率的です。

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