不動産所得を確定申告する際、減価償却費の計算は必ず出てくる項目です。前年の決算書や内訳書を参考に記入している人は多いかもしれませんが、たまにイレギュラーなケースも出てきます。今回は不動産所得における減価償却費の取り扱いでイレギュラーになるケース、かつよくあるケースを取り上げ、どう考えたらいいかを一緒に考えていきましょう。
よく知られている減価償却は「平常運転のときだけ」
最初に減価償却の基本をおさらいしましょう。不動産賃貸業での減価償却の中心は建物です。ただ建物以外に塀やフェンス、高額のエアコンといった資産がある場合、これらの資産についても減価償却をしなくてはなりません。減価償却のやり方は建物・付属設備とそれ以外の資産で以下のように分かれます。
建物・付属設備:定額法で計算
減価償却費の計算式:資産の取得価額×定額法の償却率
上記以外の資産:定率法で計算
減価償却費の計算式:資産の未償却残高(最初の年は取得価額)×定率法の償却率
なお償却率は定額法・定率法ともに耐用年数に応じて、また耐用年数も資産の構造や用途によって法律で定めています。例えば、同じ鉄骨鉄筋コンクリートの建物でも事務所用なら耐用年数は50年ですが、居住用だと47年です。以上が減価償却の基本で、計算式は「新築物件で1年間無事に賃貸業を行って収益を得られたとき」のものになります。
こんなときは減価償却の計算に要注意
例えば、以下のようなイレギュラーなケースがあると計算式がちょっと変わります。ここでは4つのケースを紹介します。
CASE01 中古物件を賃貸に出したとき
基本の計算式で用いる法定耐用年数は新築物件です。法定耐用年数は「減価償却資産が利用に耐えうる年数はこれくらい」と、法律が決めたものになります。賃貸に出す物件が中古物件だと、「すでに使ってある分だけ法定耐用年数は短くなる」と考えるのです。賃貸業に使うエアコンや内装を中古で買った場合、同じように法定耐用年数は短くなります。中古の物件や資産の耐用年数は以下のように算出します。
1.法定耐用年数を経過しきっている物件や資産
法定耐用年数×20%
2.法定耐用年数を経過しきってない物件や資産
(法定耐用年数-購入までの経過年数)+購入までの経過年数×20%
この計算式では1年未満の月数は切り捨てます。また計算結果が2年未満のときは中古物件や資産の法定耐用年数は2年です。この計算式のどちらかを使って中古の耐用年数を出したのち、あてまはる償却率を探し出して減価償却費を計算します。減価償却費は中古のほうが新品よりも高くなるのが特徴です。
CASE02 年の途中で廃業・死亡したとき
年の途中で不動産オーナーが廃業または死亡した場合、廃業後や死亡後は減価償却費を計上できません。その年の1月1日から廃業または死亡の日までの分だけを計上します。例えば、建物の1年分の減価償却費が20万円で2019年6月20日に不動産オーナーが亡くなったのなら、減価償却費の計算式は以下のようになります。
・20万円×(6ヵ月÷12ヵ月)=10万円(2019年の減価償却費)
1ヵ月未満は1ヵ月に切り上げて計算します。そのため、このケースで6月は本来20日分しか減価償却できないはずですが、20日分を1ヵ月分として計算するわけです。
CASE03 他人に賃貸していた部屋を家族に無償で貸したとき
赤の他人に賃貸していた部屋が空室になり無償で家族に貸したケースも「事業を廃業した」のと同じ扱いとなります。このときは、店子が出ていった日までの分の減価償却費しか計上できません。ただ家族が完全別生計の人で賃料を払ってくれており、かつ空室の期間も募集広告を行っていた場合、空室期間分も家族貸出以後も減価償却費を計上して差し支えありません。
CASE04 中古資産をリフォームしたとき
中古資産をリフォームしたときは注意が必要です。リフォームは本来修繕費として必要経費ですが、以下のようなリフォームはいったん資産として計上したあと、減価償却していくことになります。
・資産の価値が向上する(例:木造を鉄骨に改良)
・物理的に機能を追加(例:非常用階段を外付けする)
・用途変更(例:居住用を事務所用に変更)
・耐久性や機能が向上する(例:モルタル壁をタイル壁に変更)
ただリフォームであっても、次のいずれかの目安をクリアするものは修繕費としてかまいません。
・約3年以内に1回行われる修繕
・リフォーム代の支出総額が1件につき20万円未満
また数年に1回のような規模の大きいリフォームを行い、その中に判断のつきにくいものがあるなら以下のいずれかの要件をクリアするものは修繕費にできます。
・判断しにくい部分の支出が60万円未満
・判断しにくい部分の支出が「リフォーム本体資産の前年末時点の取得価額×10%」以下
また資産計上したリフォーム部分は「リフォーム本体と同質の資産を別に取得した」と考えたうえで減価償却します。ただどのように考えるかについての正確な判断は、実際のところ慣れていない人には難しいこともあるでしょう。そのため処理の方法に悩むようであれば、税理士などの専門家に聞くとよいかもしれません。
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