2020年3月に5G(第5世代移動通信システム)がスタートしました。5Gは今後の不動産経営にも影響を与えるといわれています。そこでIT技術を駆使した5G時代の不動産経営について考えてみましょう。
目次
1.5Gとは何か
5Gとは「5th Generation」の略で次世代の通信規格を指します。性能面では、これまでの4Gに比べて20倍の通信速度を誇り10倍のデバイスを接続できるといわれているのです。遅延は4Gの10分の1になるため、あらゆる機器からストレスなくネットワークを使えるようになります(性能はソフトバンクの例)。5Gに通信規格がバージョンアップされることは、不動産経営にもITを活用した革命をもたらす可能性があるのです。一体どのような戦略が可能になるのでしょうか。
2.5GでIoT住宅の普及が加速するか
5Gがスタートしたことにより今後普及が進むといわれているのがIoT住宅です。IoTとは、Internet of Thingsの略で「モノのインターネット」と訳される技術のこと。以前はパソコンとIT関連機器などコンピュータ同士をつなぐ手段だったインターネットが今ではテレビやデジタルレコーダーなどのデジタル情報家電にも接続されるようになりました。
中でもスマホに音声で質問できることでおなじみのスマートスピーカーの技術はさまざまな機器に利用できます。IoT住宅は、このIoTの技術を取り入れた住宅です。例えば声を掛けるだけでエアコンやテレビがついたり、外出先から風呂を沸かしたりすることもできます。さらに帰宅時に宅配ボックスに荷物が届いていることをスマホで確認できるなど、生活の利便性が格段に向上することが期待できるでしょう。
2-1.IoT住宅とスマートハウスの違い
「IoT住宅とスマートハウスの違いがイマイチわからない 」といった疑問も多いようです。ここで両者の違いを整理したいと思います 。
スマートハウスは、IoT住宅が登場する以前の2010年代前半から普及し始めたキーワードです。もともとは太陽光発電と蓄電池を住宅に設置することで、電気代を抑えながら環境貢献をする仕組みがスマートハウスと呼ばれていました。
最近は、こういった環境性能プラスIoT住宅の機能も含めてスマートハウスと呼ぶケースも多いようです。いずれにしても絶対的な定義はないため、IoT住宅のことをスマートハウスと言っても間違いではないと考えられます。
2−2.IoT住宅のメリット・デメリット
IoT住宅を賃貸経営に採用するメリットは、「他物件との差別化が図れること」です。IoT住宅は話題性の高いテーマですが、賃貸住宅ではまだ一部にしか採用されていません。そのため5Gが本格化する今のタイミングで採用すると、有利に集客できると考えられます。
なお、IoT住宅を採用することで次のような価値を入居者に届けることができます。
外出先からエアコンや照明といった家電を自由に操作できることは時間節約や快適性の向上のために役立ちます。こういった機能は子どもや高齢者の見守りにも貢献します。また IoT住宅によって自然災害や防犯に強い住宅環境も実現しやすくなります。例えば、大雨や台風が襲来する前に電気を備蓄できる機能やwebカメラで室内の様子を監視できる機能を使えば、安心・安全な環境をつくりやすいです。
IoT住宅を賃貸経営に採用するデメリットは、賃貸住宅にIoT住宅を採用することで初期費用とランニングコストがかかります。併せて、長期的にみると設備の交換の費用も意識した方がよいでしょう。
2-3.IoT住宅の今後の課題
今後、IoT住宅が本格普及する中で様々なアイテムのコストが安くなっていくことが期待されます。現時点ではそれなりのコストがかかるため、IoT住宅を採用することで本当に収支が合うのか(どれくらい家賃がアップできるか)を考慮した上で採用するのが賢明です。
3.VR内見やIT重説で不動産の契約までが簡素化
5Gがスタートしたことにより「不動産の契約までのプロセスがより簡素化される」という見方があります。その一つが、「VR内見」と呼ばれる物件の内見方法です。VR画像を見るためのゴーグルがあれば現地に行かなくても不動産会社の店舗や自宅にいながら物件を複数内見できるため、時間を大幅に短縮できます。
もう一つは契約時の重要事項説明がIT重説になることです。これまで重要事項説明は、宅地建物取引業法第35条により対面で行うことが義務づけられていました。しかし国土交通省がIT重説の運用に関して「条件を満たせば対面による重要事項の説明と同様に取り扱うこととする」としたことで対面でなくても重要事項説明が可能になったのです。
この2つのステップが簡素化されることにより忙しいユーザーのネックになっていた部分が解消され、物件の選択から入居までがスピードアップします。不動産会社にとっては、経営の効率化につながることでプラス面が大きい改革といえるでしょう。
3-1.VR内見のメリット・デメリット
VR内見による内見希望者のメリットは「現地に行かなくても内見ができること」です。忙しくて時間のない人、遠方で現地を訪れられない人、限られた期間でたくさんの物件の内見をしたい人などにベネフィットがあります。
また賃貸オーナーからすると、不動産会社と内見希望者の都合が合わないことでビジネスチャンスを逃すようなロスを軽減することが期待できます。
VR内見による内見希望者のデメリットは、物件で使われている壁や床などの「細かい素材感・色合いが確認しにくい」ことです。また、「周辺環境がチェックしにくい」という声もありますが、これは不動産会社の工夫でカバーできる可能性があります。
VR内見のオーナーのデメリットは、内見者が後日物件を訪れたときに「実際に見ると印象が違う」といった理由でキャンセルが出ることが考えられることです。
3-2.VR内見の効果と実例
不動産業界の2,000社以上にVR内見とウェブ接客をセットにした「VRウェブ接客システム」を提供しているスペースリーによると、この新しいシステムを採用することで数多くの不動産会社が高い効果を実現しているとのことです。
スペースリーが紹介する実例としては、グッドルームではVR内見の採用でWEB反響率が1.5倍に増加、日本財託管理サービスでは成約率が4割から6割にアップしたとのことです。また、タクトホールディングスでは、VR内見によって来客・接客数が50%増加すると共に、内見業務を70%効率化することに成功しています。
5G時代を迎えてさらにVR内見が広がることを考えると、賃貸オーナーが管理会社や客付会社を選ぶときには「VR内見を積極的に採用しているか、使いこなしているか」というのも1つの指標になりそうです。
3-3.IT重説に対応している物件の状況について
5G時代の本格普及を前に、不動産会社のIT重説への対応はどのような状況でしょうか。IT重説は2017年に国土交通省の主導で解禁されましたが、利用はごく一部に止まっていた感があります。
ただコロナ禍をきっかけに積極利用する不動産会社も目立つようになりました。一例では、ポラスグループ傘下の管理会社が全24店舗でIT重説に本格的に取り組む模様が2020年4月の日経新聞で紹介されています。
3波、4波……新型コロナの度重なる襲来と5Gの普及によってIT重説を推す不動産会社は今後も増え続けることが予想されます。
4.5Gで不動産広告戦略はどう変わる?
5Gの普及は、不動産業界のネット広告戦略をさらに加速させるといわれています。広告業界ではすでに地殻変動が起きており大手広告会社電通が発表した「2019年日本の広告費」によると2019年のテレビ広告費が1兆8,612億円に対してインターネット広告は2兆1,048億円となりました。テレビ広告をネット広告が上回ったのは初めてのことです。
ネット広告の世界では、ユーザーの検索履歴に合わせたピンポイントの広告表示ができます。不動産広告も今後はユーザーの属性に合わせて最適な物件が表示されるタイプの広告が主流になるかもしれません。また不動産ポータルサイトに物件を動画で紹介する仕組みも普及しつつあります。いずれにしても5Gのスタートでさらに広告の比重がインターネットに傾くのは確実といえそうです。
5GによるIT技術を駆使した不動産革命は「入居者」「オーナー」「不動産会社」それぞれに利便性という恩恵を与えてくれます。「これからマンションの開発を行いたい」と考えているオーナーにとっては、IoT住宅にすることで他物件との差別化を図ることができるでしょう。付加価値を付けることによって家賃も高く設定することも可能です。
土地オーナーとデベロッパーが協力して5G時代にふさわしいマンションを開発することが期待されます。
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