新型コロナウイルスの感染拡大は、実生活においてさまざまな影響を及ぼしました。外出自粛やリモートワークの本格導入など、これまでにない事態に戸惑いを感じる人も多かったでしょう。このような事態は、今後の日本経済にどのような影響を及ぼすのか、経済学者の小幡績(おばた せき)先生にお聞きします。
━━現在日本では、大企業の営業自粛や新しい生活様式の発表など、関連したニュースを目にしない日はないほどですが、感染拡大前の日本経済はどのような状況であったと言えるのでしょうか。
日本にかぎらず、感染拡大前の世界経済は“地味なバブル”であった、と言えるでしょう。
2008年のリーマン・ショック以降、世界中で量的緩和が行われ中央銀行が意図的に、市場へお金を大量供給しました。
この影響で各国の国債がバブルとなり利回りが下がり、今度はもっと利回りのよい他の金融商品がバブルに、という広がりを見せます。
なかには、利回りを追求しすぎてリスクの高いジャンク債市場にもバブルの影響が現れ始めた、というのがこれまでの状況です。
不動産で言えば人気のあるハワイやマンハッタンなどの華やかな物件などはより高額に、人気のないものはそれまでよりも低く、といったように物件による価格差が開いていく様子も見てとれたと思います。
ベンチャー企業への投資なども活況とし、ユニコーンバブルと呼ばれて盛り上がりを見せましたが、19年末には、ソフトバンクグループのシリコンバレーのユニコーン企業への投資の失敗をきっかけに金融市場全体のバブルが20年にも崩壊するのでは、という予測がたっていました。
━━新型コロナウイルスの感染拡大後では、上記のような経済状況はどのように変化するでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大を直接の要因とする大きな変化はないと考えています。
そもそもバブル崩壊が目前というところに、各国で感染拡大が発生して早めに崩壊のタイミングが訪れました。 そのため、来るべき状況が感染拡大の影響で少し前倒しになったという見解です。
また、新型コロナウイルスの感染拡大は社会的な施設やシステムそのものを直接的に崩壊することはなく、“痕”には残らないタイプの危機です。
これまでの財政危機をいくつか例に挙げると、東日本大震災の発生時には東北地方を中心に生産施設・農地・住居・公共施設などが損壊しました。農地の中には今後10年農作物を育てられないと言われているエリアもあり、同地方での経済活動は著しく停滞します。 リーマン・ショックの際には米国や欧州の金融システムへのダメージが大きく、経済活動の収縮が発生したことで間接的に日本も不況となりました。
一方、今回は施設の損壊や金融システム、つまりストックへのダメージはありません。
もちろん、雇用や人的資源への影響は発生しています。こちらも大きな問題ではありますが、大規模な設備投資をしなければ生産活動を再開できない、もしくは金融システム全体を見直さなければ金融商品の売買ができない、ということはありません。
自粛していたものを再開すればある程度の水準に戻すことができます。
そのためバブル崩壊による影響はありますが、感染拡大を起因とする経済の劇的な変化が起こる、ということはないでしょう。
━━影響が少ない中でも不動産市場に限定して、目立って注意が必要なのはどのような部分でしょうか。
たとえば観光関連の不動産に関する考え方などは変わるでしょう。
外国人観光客の需要や国内旅行などについても一定の影響があると思います。 また、外出自粛により、これまでよりも自宅へのこだわりが強くなるうえ、リモートワークの本格導入により出張に対する考え方も変わるかもしれません。
観光客の減少や、新幹線や飛行機で出張をおこない現地に宿泊していた層が、そこまでしなくてもリモートで済ます、そうしてホテルなどの利用者が減少することも予想されます。
そうすると、ホテルファンドや、観光地の不動産価格などについては影響が出てきます。
ほかにも、ストックがダメージを受けていない状況で各国が制限なしともとれる財政出動をおこなったことで新たなバブルが発生しています。
いますぐ不動産資産を手放さなければいけないほど価格が下落している訳ではありませんが、瞬間風速的に短期的な変化が起こる可能性もあるため、感染拡大後の社会では目先の情報に振り回されず、長期的な視点にのっとった判断をすることが求められます。
小幡 績
東京大学を卒業後、大蔵省(現 財務省)に入省。ハーバード大学にて経済学博士号を取得し、現在は慶應義塾大学ビジネス・スクールにて准教授を務める。専門は行動ファイナンス、コーポーレートガバナンス。著書に「すべての経済はバブルに通じる」「リフレはやばい」「GPIF 世界最大の機関投資家」など。
>>続きはこちら「小幡績インタビュー#2 経済を正確に読み解いて、不動産オーナーが余計な不安を抱かない方法」
>>続きはこちら「小幡績インタビュー#3 アフターコロナ これから気になる日本経済のこと」
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