e-Tax,青色申告特別控除
(画像=sb/stock.adobe.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

不動産投資の規模が大きくなると青色申告の節税メリットが高くなります。その一つが「65万円控除」です。ただし2020年分の確定申告から「総勘定元帳などを電子帳簿保存する」「e-Tax(電子申告)で申告する」といったいずれかを行わないと青色申告特別控除額が小さくなってしまいます。

投資規模の大きいオーナーは65万円控除の条件が厳しくなる

不動産投資を青色申告しているだけでも「他の所得との損益通算」「損失の繰越控除・繰戻還付」で節税効果を享受することが可能です。また投資規模が大きくなり「おおむね5棟10室以上」という税務上の事業規模水準を満たせば必要経費や控除で収入額から差し引けるものが増えます。具体的には、以下のような内容です。

  • 青色申告特別控除が10万円から65万円になる
  • 家族を青色事業専従者にすれば支払った給与を経費に計上できる
  • 回収できなくなった賃料を必要経費に計上できる
  • 建物の取り壊しによる損失を全額経費計上し、翌年以後3年間繰越ができる

差し引けるものが増えれば節税効果は、当然高くなります。ただし2020年分以降はこの効果が少し下がる可能性があります。なぜなら青色申告の特別控除65万円に条件が付け加えられたからです。この条件というのは「申告は電子申告(e-Tax)で行うこと」「総勘定元帳などを電子帳簿保存する」といったものになります。

おおむね5棟10室以上の規模で賃貸業を営んでいるオーナーが65万円控除を受けるには、複式簿記での記帳や損益計算書・貸借対照表の添付をしただけでなくe-Taxで確定申告を行うことが必要です。紙面での確定申告の場合、控除額が10万円下がり55万円になってしまいます。

e-Taxで申告するには

e-Taxで申告するにはどうしたらいいのでしょうか。ここでは、必要な準備や注意点について見ていきましょう。

e-Taxとは

e-Taxとは、国税庁の申告・納税・申請・届出に関するオンラインサービスです。正式名称は「国税電子申告・納税システム」といいます。「今まで紙で済んでいたものをe-Taxで申告しないといけないの?」と感じる人もいるかもしれません。しかし65万円控除以外にもe-Taxにはメリットがあります。まず自宅で確定申告作業をすべて完結させることが可能です。

また税務署や郵便局まで足を運ぶ手間が省けます。納税もダイレクト納付・インターネットバンキング納付・クレジットカード納付のいずれかを利用すれば自宅で済ますことが可能です。さらに24時間申告・納税できる点もメリットといえるでしょう。申告だけでなく他の届け出や他の処理もe-Taxで済ますことができます。

家族を青色申告専従者にしているオーナーの場合は、年末調整が必須です。しかし法定調書合計表などの提出もe-Taxで行えます。

e-Taxの事前準備

e-Taxを行うには、以下の2つの方式があります。

・マイナンバーカード方式
マイナンバーカード方式で行う場合は、事前にマイナンバーカードとICカードリーダライタを入手することが必要です。

・ID・パスワード方式
ID・パスワード方式の場合は、事前にIDとパスワードの入手が必要になります。

マイナンバーカードとICカードリーダライタがあれば自宅から確定申告が可能です。しかしもしこの2つがない場合は、運転免許証など身分証を持参して税務署で手続きすることになります。いずれにしても事前準備が必要です。

不動産オーナーはスマホでe-Taxできない

近年、e-Taxはパソコンだけでなくスマホでも行えるようになりました。「不動産オーナーの確定申告もスマホでサクサクと済ませられればラクになる」と思いたいところです。しかし残念ながら不動産投資の確定申告はパソコンでしか行えません。スマホでのe-Taxは、以下の種類の所得しか利用できないため注意が必要です。

  • 給与所得
  • 公的年金等の雑所得
  • FX以外の雑所得
  • 一時所得

そのため不動産オーナーがe-Taxで確定申告をする場合は、パソコンで確定申告を行わなければいけません。

その他の注意点

上記の事前準備を行えたとしても「e-Taxで申告さえすれば必ず65万円控除になる」というわけではありません。次のような点も意識しましょう

e-Taxでも期限後申告だと10万円控除になる

申告期限の3月15日(休日の場合は翌営業日)より遅くなってしまうと特別控除は65万円から10万円に下がります。これは紙の申告およびe-Taxでの申告のどちらでも変わりません。65万円控除も55万円控除も「3月15日という法定申告期限までに申告すること」が条件です。また申告や納税が遅くなれば無申告加算税や延滞税がかかります。ペナルティで余計なお金を支払わないように注意が必要です。

2期連続で期限後申告だと青色申告の承認が取り消しに

期限後申告の影響は、特別控除額の縮小だけではありません。2期連続で期限後申告になると青色申告の承認そのものが取り消しになります。紙面およびe-Taxのどちらでも同様です。青色申告の承認が取り消されると特別控除だけでなく家族への給料を経費計上できなくなるなどさまざまなデメリットが生じてしまうため、常に期限内に申告するよう心がけましょう。

期限間際になるとサーバがダウンしやすい

2020年のコロナ禍で話題になった持続化給付金の申請は、オンライン手続きだけだったため、時々アクセスが集中してサーバがダウンする現象が見られました。この現象はe-Taxでの確定申告でも毎年生じます。特に3月に入ると確定申告を行う人が急増するのでサーバがダウンしやすくなる可能性があるのです。

「e-Taxなら24時間自宅で申告できる」と思って安心して確定申告の手続きを先延ばしにしているといざというとき国税庁のサイトにつながらず慌ててしまう可能性もあります。そのためオンラインでの申告の場合でもこれまで通りできるだけ早めに預金通帳や領収証を整理して会計ソフトへの入力を済ませておきましょう。

>>【無料小冊子】税を理解して賢い投資家になろう - 税金一覧と節税方法を解説

【あなたにオススメ】
面倒な確定申告の手間を削減するには?
サラリーマン大家の不動産所得の確定申告
不動産投資の借入金と金利、確定申告で必要経費になる?
確定申告で間違えやすい「不動産ローンの必要経費」
【特集#01】不動産投資初心者が知っておきたい確定申告の基本