近年サブスクリプション形態のビジネスモデルが急速に拡大しています。サブスクリプションは、製品やサービスそのものではなく「使用権を購入する」という仕組みです。現代において考え方の変化を背景に、生活者の多様化するニーズに柔軟に対応し、ビジネスチャンスを狙う事業者の参入が相次いでいます。
拡大するサブスクリプションビジネス
サブスクリプション(subscription)とは、英語で雑誌の「予約購読」「定期購読」の意味です。そこから転じて「有限期間の使用許可」として使われるようになりました。従来の一般的なビジネスは、モノやサービスを購入して永続的に所有権を得る「買い切り」型といわれるものです。しかしサブスクリプションは、モノやサービスの使用権を購入し利用したい期間に応じて料金を支払います。
新聞や雑誌の定期購読のサービスは、従来からありました。2013年にソフトウエア会社のアドビシステムズがそれまでの「箱入りソフトウエア」の販売からサブスクリプション方式での販売に転換し業績をあげたことがきっかけとなりさまざまな企業がこのビジネスモデルに注目して参入。2021年2月現在では、飲食や自動車、洋服、バッグ、化粧品などの製品に限らずサービスにも広がり続けています。
サブスクリプション市場規模の推移
サブスクリプションの代表的なサービスは、以下の7市場です。
- 衣料品、ファッションレンタル
- 外食サービス
- 生活関連サービス
- 他拠点居住サービス
- 語学教育サービス
- デジタルコンテンツ
- 定期宅配サービス
7市場の国内の市場規模を見ると6,835億円(2019年度)、7,873億円(2020年度予測)、2023年度には1兆円を超えると予想されています。
<サブスクリプションサービス国内7市場規模の推移>
2019年度 | 6,835億円 |
2020年度(予想) | 7,873億円 |
2021年度(予想) | 9,019億円 |
2022年度(予想) | 9,975億円 |
2023年度(予想) | 1兆1,021億円 |
2024年度(予想) | 1兆2,117億円 |
サブスクリプションが普及してきた背景
サブスクリプションが普及してきた背景として生活者がモノを「所有すること」よりも「使用すること」に価値を見いだすようになってきたことがあるでしょう。特に若い世代は製品を使うことで得られる結果や体験以外にも「お金が節約できる」といった合理性により価値を感じる傾向です。さらに断捨離や必要最小限の持ち物で丁寧な暮らしを実践するミニマリストブームも少なからず影響しています。
多様化するサブスクリプション
では、具体的に私たちが利用できるサブスクリプションにはどのようなものがあるのでしょうか。
「KINTO」(キント)
自動車大手のトヨタ自動車が参入している「KINTO」(キント)は、月額定額の料金で新車を長期契約で借りられるサブスクリプションです。自動車保険料やメンテナンス費用が含まれプランによっては契約途中で車種変更もできます。2020年7~12月期は前年同期比で6倍以上の申し込みがあるなど好調で主な顧客層は20~30代が約4割と従来の販売店の中心顧客よりも若いことが特徴です。
「Netflix」(ネットフリックス)
洋服やブランドバッグなどを定額料金で何度でも借りられるサービスは、若い女性を中心に人気です。しかし一方で音楽や映像などコンテンツ分野は、これまでの購入型のサービスに代わり「Netflix」(ネットフリックス)といった定額制サービスが今や主流になっています。他にも以下のような多様化する生活者のニーズに合わせた個性的なサブスクリプションも登場しています。
- 絵本クラブ:子どものいる家庭に最適な内容の絵本をセレクトして月に1度届けてくれるサブスクリプション
- Doctors Me(ドクターズ ミー):パソコンやスマートフォンを通じて体の気になることを回数制限なしに医師に相談できるサブスクリプション
「新しい生活様式」に合ったサブスクリプション
2020年は、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い「新しい生活様式」が生まれました。そのため社会のニーズを反映したサブスクリプションも注目を集めています。サブスクリプションを展開する事業会社などで構成する日本サブスクリプションビジネス振興会による「日本サブスクリプションビジネス大賞2020」では、グランプリに「手ぶら登園」が選ばれました。
「手ぶら登園」は、大手紙おむつメーカーと子育て支援ベンチャーが運営するもので保育園に紙おむつが直接配送され保育園での紙おむつが月額定額で使い放題になるサービスです。保護者は従前の「紙おむつに手書きで名前を書いて持参する」という手間がなくなり保育士側は「おむつの管理が簡単になる」という双方のメリットが評価されました。
また注目したいのがブロンズ賞を受賞した日本初の家具・家電のサブスクリプションサービス「subsclife(サブスクライフ)」です。家具や家電といえば大きな出費になりがちですが商品定価を超えずに月額制で必要なときに必要な分だけ必要な家具を利用できるサービスとして人気を集めています。
初期費用を大幅に軽減し新品でデザイン性の高い家具・最新家電を利用できます。さらに気に入った商品は買い取ることも可能です。テレワークの推進で在宅勤務が多くなったことを受けて月額640円(税込み)からオフィス用の椅子を利用できるプランなども注目されています。「subsclife(サブスクライフ)」では、個人だけでなく法人に向けたオフィス家具のサブスクリプションも開始しています。
住居に関するサブスクリプションもある?
では、住居に関するサブスクリプションにはどのようなものがあるのでしょうか。
「unito」(ユニット)
「敷金・礼金」「更新料」「退去費用」がいずれもゼロなことが特徴です。さらに「外泊したらその分だけ家賃が安くなる」という日本初のシステム「リレント」を導入しています。例えば東京と地方、2拠点で住む場合、滞在しない日数分の家賃が下がり合理的です。いわば固定費である家賃を変動費に変え「暮らしの最適化」を追求したものといえます。
「ADDress」(アドレス)
「ADDress」(アドレス)は、月額4万円から利用できる「全国住み放題」のサブスクリプションです。敷金・礼金・保証金などの初期費用はかからず電気代・ガス代・水道代、ネット回線料金はすべて込みですぐ住めるのが特徴。対象物件は、2021年1月時点で全国に120ヵ所以上あり状態の良い空き家や別荘をリノベーションした家が中心です。
家族(2親等以内)と固定のパートナー1名は、追加費用なしで利用できます。そのため「週末に家族と別荘代わりに使う」「自然豊かな地方を泊まり歩く」「地方移住のお試しやワーケーション(観光地やリゾート地でテレワークを活用し働きながら休暇をとる過ごし方)」などさまざまな利用が可能です。
サブスクリプションのメリットと注意点
サブスクリプションの一番のメリットは、なんといっても製品を所有・購入しなくてもいいことです。また初期費用が抑えられコストを平準化できる点もメリットでしょう。例えば前述のKINTOで「プリウス S HV 1.8L 2WD(5人)」を 利用した場合、サイトのシミュレーションによると支払額は月額5万1,260円(税込み、3年間、35歳で試算。駐車場代、ガソリン代は含まず)です。
代金には、税金や諸費用、自賠責保険や任意保険の保険料 にメンテナンス費用も含まれています。同サイトのシミュレーションによると同じ車種を現金一括で購入した場合、月額換算すると6万3,300円です。銀行で年利5%のローンを組んだ場合は、初回月6万9,680円、2回目以降月額6万9,200円となりサブスクリプションを利用したほうがどちらも1ヵ月あたり約1万円以上抑えることができます。
またアップデート性が高く「最新の製品を常に利用できる」「契約期間中は万全のサポートや保証を受けられる」といった点も見逃せないメリットです。高額なモノを買う前に試しに使ってみることができるのもメリットでしょう。
利用における注意点
サブスクリプションを利用する際には注意しておきたい点もあります。KINTOの場合、月額利用となるため、価格が平準化されることで全体のコストが見えにくくなる点は注意が必要です。つまり使用予定期間によっては、購入したほうが安くなることもあります。自動車の場合、車種や仕様の違いによる支払額の違いは月にすると数千円程度のため購入なら手が届かない高いグレードを契約してしまいがち。
そのため新たに契約する場合には「本当に必要なサービスか」についてしっかりと見極めるようにしましょう。また1件あたりは低額でもさまざまなサブスクリプションを利用することでサブスクリプション全体の利用額が大きくなり結果的に家計を圧迫する可能性もあります。また数百円程度の利用料だと解約するのを忘れて放置してしまうことも少なくありません。
使わなくなった際には、忘れずに解約手続きを行うことを心がけるようにしましょう。サブスクリプションサービスの利用は、初期費用ばかりに目が行きがちです。しかしいざランニングコストを見直そうとしても何かと理由をつけて解約できないケースも見られます。やむを得ず途中で解約することになった場合、契約の残り期間によっては高額な精算金が必要になるケースもあるため、注意が必要です。
そのため解約するとどうなるかについても契約時に必ず確認するようにしてください。モノを長く大切に使うことで育まれるいたわりや感謝の心も人の生活には欠かせないものです。自身の生活の中に「所有すること」とサブスクリプションをバランスよく取り入れながら上手に活用するようにしましょう。
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