中国が進める「海外ハイレベル人材招致『千人計画』」が注目を浴びています。この政策がスタートしたのは2008年のことです。10年以上の時を経て、なぜ今日本で千人計画が話題になっているのでしょうか。千人計画と日本の科学研究の実情を追いました。
千人計画とは
中国政府が行う「海外ハイレベル人材招致『千人計画』」は、2008年に海外の人材を呼び戻すためにスタートした政策です。
千人計画では、55歳以下かつ海外で博士号を取得している人材を対象として、中国国内の高等教育機関や研究機関、中央企業、国有金融機関の上級管理職または専門技術職に就業してもらうことを目的としています。
千人計画で採用された人材は、中国が重大プロジェクトに位置付けているさまざまなプロジェクトの責任者になることができる上に、本人と配偶者、未成年の子どもは中国の外国人永久居住証を取得できます。
招致に応じた人材には所得税免除の補助金として100万元、日本円にして約1,680万円が支給されるほか、住宅手当や飲食手当、引越し費用、親族訪問費用が支給され、子どもの教育費は5年間免除されます(2021年4月現在)。
賃金は現在の収入を水準として本人と協議し、合理的な賃金額を決定できるといいます。10年以上も前から、中国は海外で活躍する人材をさまざまな優遇によって招致しようとしているのです。
千人計画で日本の人材が流出する背景
2021年元旦、某新聞社が「中国の千人計画に日本人の研究者が44人関与している」と報道し、大きな話題になりました。日本では千人計画への参加に関する規制はなく、政府もその実態を把握していないといいます。
優秀な日本の人材が中国をはじめとする海外に流出していると聞くと、「日本の技術が人材とともに海外に流出してしまうのでは」と危機感を覚える人も多いでしょう。しかし、実情は少し異なるようです。
日本の研究者が中国をはじめとする海外に流出する背景には、日本の科学技術に対する予算の少なさがあります。
日本の科学技術予算は2000年以降ほぼ横ばいで、5兆円以下の規模で推移しています。ところが中国では2000年以降年々増額され、2017年には24.2兆円と世界トップの規模の予算を確保しました。
実際に千人計画に応募し、中国で研究を行っている日本人研究者の中には「日本にはない研究環境が中国にはある」と語る人もいます。
研究のための設備も購入できない日本の大学の現状
日本の約5倍の予算を確保し、世界の学者を呼び寄せている中国の科学技術は、今後ますます発展していくでしょう。日本の地方大学では数千万円かかる研究設備を購入する予算もないため、研究者の数が減っているといいます。
研究設備が十分でない大学では国際レベルの研究を行うことは難しく、日本の基礎科学は危機的状況にあるといえます。
日本の科学研究の危機は中国が招いているわけではない
基礎化学は、イノベーションによる社会経済の発展に欠かせません。日本の科学研究に関する論文数は増えてはいるものの、他国と比べて伸び率は低く、また国際的にシェアされる回数も大きく減っています。研究費の少なさから独創的な研究を行えないだけでなく、次の時代を担う研究者を安定的に雇用することもできません。
中国の千人計画によって日本の研究者が流出しているのではなく、そもそもの原因は国内では望む研究が行えないことです。優秀な科学者を国内に踏みとどまらせたいのなら、中国と同規模といかないまでも、地方大学にも研究費が行きわたるレベルの予算を確保する必要があるでしょう。
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