Park(公園)とArchitecture(建築学)の造語である「パーキテクチュア」は、歴史的な建築物という枠組みを超えて、環境保護や地域の活性化など、人々の生活にさまざまな恩恵をもたらしています。
優れたパーキテクチュアは、建築家の技量だけでは成し得ません。造園家やエンジニアなどさまざまな人々がそれぞれのアイデアやスキル、知識を用いて、その地域の気候や風景、特色を生かした「自然に溶け込む建物」を創造するのです。
西洋建築の移り変わり
「西洋建築の起源」というと、古代ギリシャやローマの壮大な建造物が思い浮かびますが、歴史はさらにさかのぼり、先史時代にはすでに建築のアイデアが誕生していました。世界文化遺産として認定されている、トルコの新石器遺跡ギョベクリ・テペや英国の遺跡ストーンヘンジなどが、その好例です。
古代エジプト時代には、強力な支配者が権力の象徴として、ピラミッドや寺院など巨大な建築物を建設させました。空気が乾燥したエジプトでは、木材は広く利用できなかったため、古代エジプトの家はブロックや日焼け泥で作られていました。
現在、「古代建築(クラシック・アーキテクチャー)」と称される建築物の基盤は、古代ギリシャの出現からローマ帝国の崩壊までの期間に生まれたものです。紀元前1世紀のローマの著名な建築家マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオによる、「対称性と均衡がなければ、どんな寺院も計画的に建設できない」という有名な理論がありますが、古代建築も正確な規則に従って建設されています。
その後、ビザンチン(東ローマ)、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロックと、時代とともに建築様式も変化を遂げます。
近代建築を経て生みだされた「パーキテクチュア」
19世紀末ごろからは工業化の影響を受け、機能性や合理性を追求したモダニズム(近代)建築が盛んになりました。近代的なデザインを求める風潮はさらに加速し、目的に応じてデザインされたシンプルな様式の建物が、世界中で建てられるようになりました。
しかし、どれほど時代が変わっても、「自然に癒やしを求める」という人間の本質に変わりはありません。人々が集う公園という自然の公共の場において、豊かな自然環境と調和した建物を創りだすという発想から、パーキテクチュア(Parkitecture)が生まれました。一般的には、「20世紀初頭から中ごろにかけて、米国国立公園局(NPS)で開発された建築様式」と定義されていますが、公園との調和を配慮したデザインという観点では、例えば湖から放水路、看板に至るまで、あらゆるモノをパーキテクチュアの一部と見なしても良いかもしれません。
環境問題対策の糸口としての活用例
近年、パーキテクチュアが再び注目されている理由は、視覚的な娯楽や体験だけではありません。環境破壊や気候変動が生態系と人々に与える悪影響が懸念される中、持続可能な運用および保守に焦点を当てた新たなインフラストラクチャーが求められています。パーキテクチュアはこうした問題に対する解決の糸口を見つける機会としても、活用されています。
例えば、NPSは公園のインフラストラクチャーをアップグレードする際、独自の「気候変動および持続可能な事業プログラム」を通し、工事による影響についてのデータを収集することで、結果と行動の変化に役立てています。また、米国グリーンビルディング協会が規格化・認証する建物・敷地利用についての環境性能評価システム「LEED」に基づき、持続可能な戦略が気候変動と回復に対処できることを、民間パートナーとの協力を通し、実証しています。
地域の活性化にも貢献
パーキテクチュアの語源となった米国国立公園の一つ、カリフォルニア州ヨセミテ国立公園のマジェスティック・ヨセミテホテル(The Majestic Yosemite Hotel )、ロッキーマウンテン国立公園のモレーンパーク博物館・円形劇場(Moraine Park Museum and Amphitheater)、グランドキャニオンにそびえ立つエル・トバーホテル(El Tovar Hotel)など、パーキテクチュアが有名な公園には、世界中の観光客が集まります。つまり、パーキテクチュアは地域の活性化にも、大きく貢献しているということです。
自然や天然素材からインスピレーションを受けたパーキテクチュアは、「自然に戻る」という美学の理想化に成功しただけではなく、われわれが普段あまり意識していない領域でも、人々の生活にさまざまな恩恵をもたらしているのです。現代建築学にも生かせる点が、多々あるのではないでしょうか。
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