高齢者向けプリペイ賃貸住宅「ライフ・リース」
(画像=Twinsterphoto/Shutterstock.com)
アレン琴子
アレン琴子
国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、ファイナンシャルライターに転身。現在は欧州を基盤に、複数の大手金融メディアで執筆活動中。国際経済から投資、資産運用、FinTech、ビジネス、行動経済学まで、広範囲に渡る「お金の情報」にアンテナを張っている。

日本同様、高齢化が加速する欧米で、「ライフ・リース(life lease)」と呼ばれる、高齢者を対象とするプリペイ賃貸住宅の利用者が増えています。「通常、市場価格より30~50%で新居が購入できる」という新しい住宅形態の仕組みと、メリット・デメリットを見てみましょう。

市場価格の30~50%で新居が購入できる「ライフ・リース」

ライフ・リースは、高齢者の経済的負担や住まいに関する老後の不安を軽減し、余生を快適に過ごせるようにデザインされた住宅形態です。利用条件は、物件の所有者である「スポンサー」により異なりますが、一般的には55~60歳以上が対象となります。家賃や住宅ローンの金利を払うことなく、通常、市場価格の30~50%の価格で新居が手に入るという点が、最大のメリットです。

賃貸、持ち家との違い

持ち家が住宅や土地の所有権を購入するのに対しライフ・リースの所有者は、リース期間中、住宅や共通の施設を「使用する権利」を購入します。そのため持ち家のように使用している住宅を売却することはできません。また、リース期間終了後、あるいは権利所有者が他界した場合などは使用権利が執行します。

こうした点は賃貸と共通しますが、家賃を納めることにより使用権を借りている賃貸と比べると、住む権利が保証されているのが特徴です。家主側の事情で、突然退去を迫られる心配もありません。

ライフ・リースの仕組み

ライフ・リース物件の所有権は、「スポンサー」と呼ばれる専用の企業(ライフリース企業)やデベロッパー(開発業者)が有します。ライフ・リースの利用法は2種類です。1つ目は、ライフ・リース企業を通し自分の選んだ物件を購入するという方法。この場合、物件を購入するのはライフ・リース企業で、自分はその使用権を購入することになります。

2つ目は、ライフ・リース専用の物件に入居するという方法です。近年は高齢化にともないライフ・リース専用の一戸建てやマンションを建設するライフリース・プロジェクトが活発化しています。これらのプロジェクトは、営利目的または非営利目的の事業体が開発していますが、営利団体がライフリース・プロジェクトを開発する場合、そのプロジェクトの所有権は完成後に非営利団体に移転されるのが一般的です。

ライフ・リースの価格は、年齢に基づいてスポンサーが決定します。一括払いができない場合は頭金を納め、残金を分割で返済することも可能です。入居後は、毎月維持費を納める必要があります。

余裕ある老後を応援するライフ・リース

具体的な例を見てみましょう。定年を迎えたある夫妻は、住み替えのために所有していた家を25万米ドルで売却しました。しかし新たに購入を検討している新しい家は30万米ドルと、予算を大幅に上回っています。また老後資金も心もとないため、売却したお金を少し貯蓄したいと考えています。そこでスミス夫妻が住み替えを希望している家をライフ・リース会社が購入し、夫妻の年齢に基づいて20万米ドルのリース額を決定しました。

つまり、夫妻は30万米ドルの代わりに20万米ドルを払うだけで希望の家で余生を過ごせ、さらに5万米ドルを老後資金に回せるということです。

ライフ・リースのデメリット

ライフ・リースは住み替えを検討している高齢者にとって、理想的なプランのように見えますが、デメリットも潜んでいます。

  • 家族に譲渡できない

前述したようにライフ・リースはあくまで使用権利を購入するものであるため、家を遺産として家族に残すことはできません。「家族に住んでいる家を残したい」と考えている人には、不向きでしょう。

  • 資産が減る

普通に家を購入するより低いとはいえ、ライフ・リースの費用が大きなお金であることに変わりありません。家の買い替えであれば、その費用が新しい資産の一部として手元に残りますが、ライフ・リースでは全額がスポンサーに徴収されます。つまり資産が減るということです。何らかの事情でまとまった資金が必要になったとき、窮地に陥らないようライフ・リースの利用については慎重なライフプランが必須です。

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