住宅難が深刻化するニューヨークで、ピエタテール ・タックス(pied-à-terre tax)の導入が議論されています。ピエタテール ・タックス(pied-à-terre tax)は、投資やセカンドホームとして使用されている中古マンションやアパート、部屋を追加課税対象とすることで、住宅難を緩和し、州の税収増加を狙う意図です。
ピエタテール ・タックスの導入が検討されている背景
人口の増加、都心への人口集中……ニューヨークやロンドン、香港といった大都市で見られる住宅難の原因は様々です。その一つとして、ゴーストアパートの急増が挙げられます。ゴーストアパートメントとは、富裕層が投資やセカンドホームとして購入し、殆ど利用することなく所有している半無人状態の住宅のことです。
ゴーストアパートメントが市内の全住宅の2.1%以上を占める(ニューヨーク市住宅保全開発省2017年調査 )」というニューヨーク市では、2014年民主党議員のブラッドホイルマン州上院議員がゴーストアパート対策としてピエタテール・タックスを提案。当時、すでに陰りが見えていたニューヨークの高級住宅市場にとって、この法案は歓迎すべきものではありませんでした。
市場の崩壊を恐れた不動産が積極的にロビー活動を行うなど、経済への潜在的な悪影響を主張した結果、与党の上院共和党員によって阻止されてしまいました。しかし、2019年1月、民主党上院議員がピエタテール・タックスを再法案。議会議員のスポークスマンは、「予算課程の一環として、同法案について綿密に検討する」とポジティブな姿勢を示すなど、導入の可能性が高まっています。
年間税額は推定6億5,000万米ドル以上
フランス語の「地に足のついた(pied-à-terre)」 と、英語の「税(Tax)」を組み合わせたピエタテール・タックスは、評価額500万以上600万米ドル未満の中古のセカンドハウスに0.5%、600万米ドル以上の住宅には37万米ドル、2,500万米ドル以上のセカンドハウスには4%課税するという追徴課税システムです。
ニューヨーク監督庁は法案が成立した場合、年間税額は最低6億5,000万米ドルになると見積もっています。税収の大幅な増加は、ピエタテール・タックスのもう一つの狙いでもあります。住宅の所有者が州外を主要な居住地としている場合、州または市の所得税の対象にはならず、州外ではニューヨークの消費税を払う義務がありません。
つまりセカンドハウスはニューヨーク州の税収という点で、何の利益ももたらさないということです。ニューヨーク州はすでに「マンション・タックス(宅地税)」と呼ばれる税制を導入しています。これは、100万米ドル以上の住宅に1%の税金を課すというものです。財務省の発表によると、2016年から2019年2月までに11億米ドルの税収をもたらしているものの、ピエタテール・タックスがはるかに大規模な税収源となることは明らかです。
年間183日以上滞在していないと、課税対象に?
それでは、プライマリー・レジデンス(主要な住居)とセカンドホームの境界線は、どこで引かれるのでしょう。ニューヨーク州で住民税の対象となるのは、州内に生活上の本拠を置き、年間183日以上滞在している納税者のみです。ピエタテール・タックスが導入された場合、同様の条件が課されるのではないかと推測されます。
各地域の取り組み
主要都市では、ゴーストアパートや外国人による住宅用不動産の購入に対する取り組みが、着々と進められています。例えば香港では、生活上の拠点として使用していない住宅の価値に対し15%、外国人はさらに15%の料金が課金されます。シンガポールは、外国人による住宅用不動産の購入に対する制限および15%の課税システムを設けており、デンマークでは外国人は政府から、セカンドホームを購入する許可を得ることが必要です。
カナダのバンクーバーにおいて空き家の所有者は、評価額に基づいて1%の税金を支払うことが義務づけられています。ゴーストアパートが住宅価格を高騰させている」と結論づけることはできません。また高級住宅が対象であるピエタテール ・タックスが導入されたとしても、手ごろな価格帯の住宅難の解決には時間を要するでしょう。
しかし「市内で所得税を収めていない非居住者が、7万5,000軒ものアパートを所有している」という事実は、住宅難に苦しむ住民にとって、納得のいくものではないでしょう。
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