一見マイナスな不動産相続における「共有」もこんな場合に活用できる
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

不動産の相続において以前は多かった「共有」ですが、最近は後々のトラブルを懸念して忌避されるようになりました。しかし共有は、場面によっては活用の余地があります。今回は、不動産における共有の有効活用について解説します。

賃貸不動産は「共有しない」が基本

昨今の賃貸不動産の所有形態については、「共有しない」ことがベターと言われています。理由は以下のとおりです。

契約を変更にあたって共有者の同意が必要

賃貸不動産を共有している場合は、賃貸借契約を変更する度に共有者の同意が必要になります。実際には、民法上に定める行為によって必要となる同意の種類が異なります。

  • 賃貸不動産の変更行為(不動産の売買契約の締結及び解除・抵当権設定・取壊しなど)
     共有者全員の同意が必要

  • 賃貸不動産の管理行為(短期間の賃貸借契約の締結・解除など)
     持分価格の過半数の同意が必要

ただし、管理行為と見なされるものであっても、不動産の用途や他の持分権者に影響を与えるような変更については共有者全員の同意が必要です。なお、建物の修繕や清掃など賃貸不動産の保存行為については、それぞれの持分に応じて単独で行うことができます。

子や孫の相続でトラブルの元に

兄弟姉妹が賃貸不動産を相続し、仲良く共有していたとしても、その後も安泰とは限りません。次やその次の相続で子や孫に持ち分が移転する際、トラブルの元になることがあります。

共有者同士がお互いの顔を知らなかったり、あるいは険悪・疎遠な仲だったりした場合、「賃貸借契約の変更の度に共有者全員あるいは持分価格の過半数の同意が必要」である不動産賃貸事業の運営がうまくいきません。

たとえば、自身が海外移住や病気・高齢などの理由で賃貸事業の継続が難しくなり、売却などを検討したとしても、一部の共有者が同意しなければ売却することができません。

子や孫を幸せにするはずの不動産が、共有にしたがために子や孫の人生を縛る『負』動産になってしまうのです。このようなことを踏まえて、最近の賃貸不動産の相続では共有ではなく「代償分割」や「換価分割」が選ばれるケースが増えています。

一見マイナスな共有だが、場合によっては活用価値がある

デメリットしかないように見える共有ですが、場合によってはメリットもあります。

例1:財産の持ち主である親が認知症などの場合

たとえば、オーナーが認知症になったり何らかの精神疾患を患ったりした場合、正しい判断ができないまま、賃貸不動産を見知らぬ業者に売却したり、取り壊したりするおそれがあります。健常な配偶者や子などが賃貸不動産を共有していれば、売却や取壊しなど、賃貸不動産そのものに大きな影響を与える行為を防ぐことができます。

例2:共同相続人が金銭トラブルを抱えている場合

共同相続人が、金銭トラブルを抱えている場合も同様です。共有者の1人が莫大な借金を抱えており、不動産を抵当に入れようなどと考えている場合、共有になっていればそれを防ぐことができます。

メリット・デメリットを比較して最善の選択を

「その後の処理が大変になるから賃貸不動産は共有すべきでない」というのが昨今のセオリーです。しかし共有そのものは単なる状態であり、それをどのように活用するかは、共有者の気持ちと置かれた状況によって変わるのです。

巷に流布する相続の通説を鵜呑みにするのではなく、ご自身や家族が置かれた状態や賃貸不動産の状況、家族関係や今後の見通しなどを鑑み、親族内で意思疎通を図りながら、共有のメリット・デメリットを比較して相続を検討するといいでしょう。

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