ゴースト・アパートメント(Ghost Apartment)というと、お化けの出現する廃墟をイメージする人もいるかもしれません。しかし欧米の不動産業界では「超富裕層が投資などの目的で購入し、空き家状態で所有している高級マンション」という意味で使われています。今回は実際にどれぐらいのゴースト・アパートメントが、世界中に存在するのかについて解説します。
超富裕層がゴーストアパートを所有する目的
ゴーストアパートトメントの定義はさまざまですが、「販売・賃貸目的のない空き物件」だけではなく利用頻度の少ないセカンドホームも含む場合が多い傾向です。マイアミ、サンフランシスコ、バンクーバー、ホノルル、香港、上海、シンガポール、ドバイ、パリ、メルボルン、ロンドン……世界の主要都市は、こうしたゴーストアパートであふれているといわれています。
超富裕層がこれらの都市にゴーストアパートを所有している理由は、投資目的やステータスの確立、節税などさまざまです。世界的低金利が続く近年、超富裕層は銀行にお金を寝かせている代わりに、高リターンを狙える投資対象を求めています。成長過程にある国際都市への不動産投資は、そうした需要を満たす魅力的な商品です。
ニューヨークの住宅の約2%がゴーストアパート?
ニューヨーク市住宅保全開発省が市内の住宅と空室を調査した報告書によると、2014~2017年の3年間で「季節的、娯楽用、または時折使用されている物件」の数が2万軒以上急増し、過去最高の7万4,945軒でした。この数字は、同市の全住宅の2.1%に値します。「販売・賃貸目的ではない空き物件」の数は2011年の16万4,467軒に対して2017年は24万7,977軒と8万3,510軒増となります。
米ニュースメディアGOVERNINGは2019年5月、「ニューヨークの新しい高級タワー(高層マンション)の多くは、超富裕層が投資目的で所有している」と報じました。ミッドタウン・マンハッタンの住宅空室率は20%と、2006年から2010年から4ポイント上昇したといいます。また2015年のニューズウィークの報道によると「パリの高級アパートの4件に1件が空き部屋」でした。
同誌は「サザビーズ・インターナショナル・リアルティの調査から、カナダ国外(主に中国、イラン、米国)に住む富裕層が、バンクーバーの高級住宅の40%を購入した」とも報じています。空き部屋や富裕層による高級住宅の購入が、必ずしもゴーストアパートであるとは限りません。しかし一部の都心では海外からの投資を誘致する手段として、富裕層を対象とする高級マンションの建設が増えています。
その結果、不動産の値上がりなど地元のビジネスや住民へのネガティブな影響が指摘されています。
ロンドン中心部のゴーストアパートは1%未満?
一方、こうしたメディアの報道に対し「信憑性がない」とする声も上がっています。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の調査によると、2014年4月~2016年4月までの間に、一部の国際不動産業者が取り扱った売上高の約3分の1は海外の買い手によるものであり、ロンドン中心部では50%を超えるまで増加しました。
買い手の多くはアジアや中東圏の富裕層で、70%が賃貸物件としての投資、30%が家族との居住地やセカンドホームであると推定されています。居住率は95%と極めて高く、完全に空き室として放置されている物件は1%未満です。つまり少なくともロンドン中心部は、ゴーストアパートが占めている割合は低いということになるでしょう。
ただし賃貸物件の多くは学生に貸し出されているため、必然的に居住率が高くなります。一方、利用期間が年に数週間というセカンドホームがあることなどを考慮すると「ゴーストアパートは1%未満」と結論づけるには、説得力に欠けるのではないでしょうか。
ゴーストアパートの急増は、外国投資が原因ではない?
外国投資の急増とゴーストアパートの急増の関連性に、疑問を唱える調査結果もあります。例えば、前述したバンクーバーです。カナダのクリーンテック(環境テクノロジー)企業Ecotagiousは2016年、電気の使用量に基づき、バンクーバーのゴーストアパートの割合を調査しました。その結果、4.8%が空き物件であることが明らかになったものの、4.9%だった2002年と比較すると、その数は減っています。
バンクーバーの中でも最もゴーストアパートが多いとされているダウンタウン・ペニンシュラですら、空き物件は2002年の6.9%から6%に減少しています。同社は調査の対象を、「過去1年間にわたり、月間15日以上、あるいは25日以上、電気が使用されていなかった住宅」と定義しています。これらの調査は、あくまで空き物件や使用目的を示したものであり、ゴーストアパートの割合を示す証拠にはなりません。
しかし「特に都市部においては、建物ではなく土地の価値のみに課税する」などという提案も出ています。そのため人口の密集する大都市や住民のための住居が不足している地域では、厳しい規制が必要なのかもしれません。ニューヨークやシンガポール、香港、シドニー、ロンドンといった一部の大都市では、すでに課税や制限といった対策が講じられています。
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