3月期決算の上場企業では毎年6月末に向けて有価証券報告書の公表ラッシュを迎えます。2019年6月末までに公表された今期の有価証券報告書のハイライト情報には新たに「株主総利回り」という項目が追加されました。そこで本稿では株式投資の成果が一目でわかる「株主総利回り」という指標について解説します。
有価証券報告書は情報の宝庫
株式で資産運用している人にとって、どの銘柄に投資するかは重大な意思決定項目といえます。投資対象となる企業の財務情報などを収集しようと思った場合、情報の豊富さにおいて有価証券報告書の右に出るものはありません。有価証券報告書は上場会社などが基本的に年に1回提出する書類です。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表や詳細な注記事項などを収録した「経理の状況」の部分は財務情報の宝庫です。
そのほか経営方針や経営戦略、経営者の視点による財務分析など、大切な運用資金を投資するなら知っておきたい情報が掲載されています。このような有価証券報告書は誰でも無料で閲覧することが可能です。百聞は一見に如かず……気になる銘柄があるという人は、さっそく金融庁の電子開示システムであるEDINET(エディネット)で企業名を検索してみましょう。
「株主総利回り」で各社の利回りがガラス張りに
有価証券報告書はボリュームのある書類です。「どこを見たらよいかわからない」という人は冒頭にある「主要な経営指標等の推移」という部分を見るとよいでしょう。ハイライト情報とも呼ばれるこの記載箇所を見れば、過去5年間にわたる経営指標の推移が一覧できます。実は、このハイライト情報に今期から加わった開示項目が本稿のテーマである「株主総利回り」なのです。
株主総利回りがどのような指標かを解説するにあたり、改めて株主にとっての利回りについて考えてみましょう。株式投資の成果は、大きくわけるとキャピタルゲイン(値上がり益)とインカムゲイン(配当)です。たとえば100円で買った株式が107円まで値上がりするとともに、それまでの期間において3円の配当を受け取っていたとします。
この場合、7円のキャピタルゲインと3円のインカムゲインを得たことになり、合計10円の成果です。株主総利回りは、まさにこれをパーセンテージで表示したもので上記の数値例でいえば110%(=(107+3)/100)が株主総利回りになります。なおハイライト情報は過去5年分が開示されますので、株主総利回りの場合、5事業年度前の基準日から各事業年度末までの累計で計算されています。
各社の有価証券報告書で株主総利回りをチェックしてみると、毎年配当を出していても株価が低迷しているせいで株主総利回りが100%未満になっている銘柄も少なくありません。そうした企業においては「かたはらいたし」ともいえる開示項目です。
中長期の株式投資ではここをチェック
株主にとっての過去の総利回りが一目瞭然となったところで、未来志向の情報も確認しておきたいところです。有価証券報告書の「第2事業の状況」に「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」という記載箇所があります。この中で「中長期的な会社の経営戦略」をチェックします。中長期における会社のビジョンや経営戦略などが各事業領域に開示されており、株式投資に際しての判断材料となる情報が得られるでしょう。
また、これに続く「会社の対処すべき課題」や「事業等のリスク」の箇所もあわせてチェックすることで、会社として何が課題であり、何がリスクであると認識しているかについて確認することができます。株式による資産運用を考えるにあたって、こうした有価証券報告書の情報を加味することで新たな視点が生まれることが期待されます。
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