富裕層御用達!日本の富裕層とプライベートバンクの歩み
(画像=SFIO CRACHO/Shutterstock.com)
山中勇樹
山中勇樹
ライター/編集者。主に企業経営者への取材・インタビューを通じて、ビジネス系の文章(書籍・雑誌等)を執筆。インタビュー実績多数。

世界中で経済格差が進んでいるように、日本においても、純金融資産1億円以上を保有する富裕層が増加しています。野村総合研究所の調査によると、2017年時点において、純金融資産保有額(保有する金融資産の合計から負債を差し引いた額)が1億円以上5億円未満の「富裕層」と5億円以上の「超富裕層」の数は、トータル126.7万世帯であることがわかりました。2015年より約5万世帯増加しています。

調査概要によると、景気拡大と株価上昇によって保有資産が拡大したこと、さらには金融資産を運用している準富裕層(5,000万~1億円未満)が富裕層へと移行したことがその要因であると考えられています。また、富裕層・超富裕層が保有する純金融資産の総額も増加していることから、日本における経済格差も進んでいることがわかります。これから先、こうした傾向はさらに加速していくことでしょう。

※株式会社野村総合研究所

富裕層が活用するプライベートバンクとは

そのような富裕層たちは、どのようにして自らの資産を管理しているのでしょうか。さまざまな手法がある中において、特筆すべきなのは「プライベートバンク」という存在です。プライベートバンクとは、富裕層を中心とした、豊富な資金を有する資産家の資金を専門に管理・運用する金融機関のことです。その定義からも明らかなように富裕層以外は顧客対象にならず、特別な存在であると言えます。

そもそも保有している資産が一定額を超えている場合、通常の金融機関のみで運用するのは得策ではありません。なぜなら可能な限りリスクを低減するためのポートフォリオを組む必要があり、また税金対策や相続対策、あるいは事業承継などの問題も含めてトータルに対処しなければならないからです。数%の損失が大きな額になる以上、専門家とともに資産運用していくのが富裕層の王道とされています。

日本におけるプライベートバンクの歩み

そんなプライベートバンクの発祥は、チューリッヒやジュネーブなど、世界でも有数の国際金融センターを有するスイスです。安全性や匿名性、そして高い利便性を誇るスイスのプライベートバンクは、富裕層から高い支持を経て、やがてヨーロッパやアメリカにも広がっていきました。とくに日本におけるプライベートバンクの歩みついて、その概要を紹介しましょう。

金融ビッグバンを経て日本市場に参入

日本市場において外資系金融機関に門戸が開かれたのは、1996年に行われた規制緩和「金融ビッグバン」でした。当時、アメリカ系の金融機関であるシティバンクが、日本の富裕層に対してビジネスを展開。徐々に市場での影響力を高めていきましたが、投資信託の強引な販売や脱税指南などにより、行政処分を受けることとなります。トータル3回の行政処分を経て、シティバンクは日本からの撤退を余儀なくされます。

UBSが富裕層向けビジネスを展開

シティバンクが撤退を決めたころ、日本の富裕層にターゲットを絞り、スイス系の金融機関UBSが市場に参入してきます。また他の外資系証券会社も日本市場に参入するなど、競争は激しくなりました。その後、2008年のリマーマン・ショックによってレバレッジを効かせたビジネスが難しくなるなど、状況が大きく変化。2010年代に入ると、業績の悪化や行政処分等による撤退が相次ぐこととなります。

現在のプライベートバンクは?

2010年代後半にかけ、撤退後あらためて日本に参入したクレディ・スイスが、資産5億円以上の顧客だけをHSBCから事業譲渡されるなど、業界の再編が進みます。その結果、日本市場におけるクレディ・スイスのプレゼンスが高まることとなりました。現在では、大手金融機関のほか、地方銀行やネット証券などの一部もプライベート・バンキングに参入しているものの、採算性への課題は残されています。

富裕層とプライベートのパートナーシップ

このように、紆余曲折を経てきたプライベートバンクですが、現在においても富裕層における良きパートナーであることに変わりはありません。格差社会が世界中で進展していることを考えれば、これから先、プライベートバンクの役割はより重要になるかもしれません。資産運用および管理の専門家として、求められるシーンは増えていくと予想されます。その動向を注視しておきましょう。

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