不動産を売却した際に発生する所得のことを「譲渡所得」といい、譲渡所得に対して所得税・住民税が課税されます。譲渡所得は、物件を所有していた期間に応じて短期と長期に区分され税率が大きく異なるのが特徴です。税率は短期と長期で約2倍違うため、売却のタイミングを考える際は押さえておく必要があります。
この記事では譲渡所得への課税が軽減される特別控除の特例などを含め、その基礎知識を解説していきます。
1.不動産の売却時にかかる「譲渡所得税」とは
1-1.譲渡所得とは
土地や建物などの不動産を売却した際に発生する所得を「譲渡所得」といい、その所得に対して税金がかかります。譲渡所得には、株式やゴルフの会員権などを譲渡する際に発生した所得も含まれますが、事業用に扱っている商品や棚卸資産など、山林の譲渡などで生じる所得は含まれません。
不動産の譲渡所得に対する税金は他の所得とは分離して計算することになっているため、事業所得や給与所得、不動産所得などの所得と合算して計算することはできない決まりになっています。これを「分離課税」と呼びます。ただし別の不動産を売却して譲渡損失が出た場合は、譲渡所得内で合算することは可能です。不動産を売却して多額の黒字が出そうなときは、値下がりしている不動産も同じ年に売却して黒字を減らすことができないか検討してみるのもよいでしょう。
1-2.不動産の譲渡所得にかかる税金とは
不動産を譲渡した際には「譲渡所得税」がかかると一般的にいわれています。しかし譲渡所得税という言葉は譲渡によって課税される「所得税」と「住民税」の両方のことを指して使われているため、正確には「譲渡所得税」という税金の種類はありません。実際に譲渡所得税を計算する場合、売却による所得を対象に課税される所得税と住民税を算出することと意味合いはほぼ同じになります。
所得税額と住民税額を算出する際には、まず譲渡所得がいくらかを計算します。具体的な譲渡所得の計算方法について確認してみましょう。
2.不動産の譲渡所得の計算方法
2-1.譲渡所得の計算式
譲渡所得は「収入金額」から「取得費」と「譲渡費用」と「特別控除額」を差し引いて計算され、計算式上は「課税譲渡所得金額」として算出されます。「単純に不動産を譲渡して得た収入が譲渡所得と同じになるわけではない」ということを理解しておきましょう。計算式は以下の通りです。
・収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額
2-2.計算式の項目解説
続いて、計算式で登場する「収入金額」「取得費」「譲渡費用」「特別控除額」について説明していきます。
(1)収入金額
「収入金額」は、売却の際に買い主から受け取った金額のことを指します。
(2)取得費
「取得費」は、売却対象となった土地や建物の購入にかかった費用のほか、建築代金や購入手数料、改装にかかった費用などを指します。主なものとしては以下の通りです。(なお建物の購入代金からは減価償却費相当額を差し引く必要があります)
・不動産の購入代金、建築代金
・仲介手数料
・購入時に納めた登録免許税・登記費用、不動産取得税、印紙税
・購入に際して支払った測量費、建物解体費
・設備費、改良費
・立ち退き費用、訴訟費 など
(3)譲渡費用
「譲渡費用」は、土地や建物を売却する際にかかった費用のことを指します。主なものとしては以下の通りです。
・仲介手数料
・印紙税(売主負担分)
・借家人に退去してもらった場合の立ち退き費用
・建物を取り壊して売却した場合の解体費用
・売買契約を解除して別の有利な契約をしたときに違約金
・借地権の名義書換料 など
(4)特別控除額
「特別控除額」は、収用により土地建物を譲渡した場合やマイホームを譲渡した場合に適用される控除額です。それぞれのケースで控除額や適用条件が決まっており、あらかじめ規定された条件を満たす場合に特別控除が適用されます。以下がその一例です。
・収用などによって公共事業のために建物や土地を譲渡したケース:5,000万円
・自らが居住用として使っていた自宅を譲渡したケース:3,000万円
・所有する土地を「特定土地区画整理事業」などにおいて譲渡したケース」2,000万円 など
3.譲渡所得税を減税する特例
先ほど「特別控除」について説明しましたが、この制度は譲渡所得税を減税するために重要なポイントとなるため、もう少し詳しく説明していきます。あわせて軽減税率の特例や買い換えの特例なども、紹介します。
3-1.3,000万円特別控除の特例
特別控除項目の一つに「自らが居住用にしていた不動産の場合は課税所得から最大で3,000万円が控除される」というものがありました。この制度は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」と呼ばれています。この特例の適用においては、マイホームの所有期間は関係ありません。
ただし、マイホームとして使っていた不動産に住まなくなってから3年が経過した年の12月末までに売却するという条件のほか、売り手と買い手に親子関係がないことや夫婦関係がないことなども求められます。この特例を利用するためだけに入居したと判断された場合や一時的な仮住まいとして住んでいた場合、別荘として利用していた場合についても適用外になるため注意が必要です。
3-2.軽減税率の特例
マイホームを売却した際、一定の要件を満たしている場合には「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」という制度の適用を受けることができます。税額を通常より低くできるため、適用された場合には一定程度の節税効果が見込めます。この特例を受けるためには5つの要件があります。国税庁が説明している内容としては下記の通りです。(一部項目についてはさらに詳しい条件が規定されていますが、ここではいったん省きます)
・日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること
・売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること
・売った年の前年及び前々年にこの特例を受けていないこと
・売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例を受けていないこと
・親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものでないこと
軽減税率による税額は「課税長期譲渡所得金額」が6,000万円以下の場合は所得金額に10%を掛けた額となり、6,000万円を超える場合は6,000万円を超える部分に15%を掛けて600万円を加えた額となります。
3-3.買換えの特例
「買換えの特例」は「特定の居住用財産の買換えの特例」と呼ばれ、課税時期を後ろ倒しにして繰り延べることが可能になる制度です。「譲渡益が非課税になるわけでない」ということを理解しておきましょう。例えば1,000万円で購入した居住用住宅を3,000万円で売り5,000万円の物件を居住用に買い換えたケースでは譲渡益となる2,000万円(3,000万円−1,000万円)が課税の対象となります。
この特例制度の適用を受けた場合には、新たに居住用に購入した物件を譲渡するタイミングまで課税時期が先送りされます。
4.譲渡所得の税率と所有期間、売却タイミング「5年目以降」の理由
譲渡所得税は、算出された課税譲渡所得金額に税率を掛けて最終的な税額が決まります。前述の通り、税率は不動産を所有していた期間によって「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられるため注意しましょう。
4-1.譲渡所得の税率は所有期間で異なる
短期と長期では税率が約2倍も変わってきてしまいます。短期と長期を判断する基準は所有期間が5年を超えているか否かです。不動産を売却した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得になり、5年以下なら短期譲渡所得になります。
(1) 長期譲渡所得
・長期譲渡所得20.315%(内訳:所得税15.315%、住民税5%)
(2) 短期譲渡所得
・短期譲渡所得39.63%(内訳:所得税30.63%、住民税9%)
※所得税には復興特別所得税2.1%を含む
4-2.物件の売却タイミングは5年目以降がよい理由
物件を売却するタイミングは5年目以降がよいといわれる理由は、短期譲渡所得の税率39.63%に対し、長期譲渡所得は税率が20.315%と大きく下がるからです。ただ「その年の1月1日現在で何年持っていたか」が基準になります。そのため実際の所有期間の長さとは異なることに注意してください。
例えば2015年1月2日に購入して2020年2月2日に売却した場合、実際の所有期間は5年1ヵ月となります。しかし税法上では、売却した2016年1月1日~2020年1月1日までが所有期間としてカウントされるのです。そのためこの例の場合、所有期間は5年以下となり「短期譲渡所得」になります。
その一方で、例えば2014年12月31日に購入して同じく2020年2月2日に売却した場合、実際の所有期間は先ほどより2日長いだけです。しかし税法上での所有期間は5年超となり「長期譲渡所得」に該当します。したがって年の後半で不動産を買いたいと考えているならば、年を越す前に購入を済ませてしまったほうが長期譲渡所得になる時期が早く来るので有利といえるでしょう。
なお不動産の「譲渡」「取得」の基準日ですが「引き渡し日」または「売買契約日」を用います。譲渡の基準日を「引き渡し日」に設定した場合、取得の基準日も「引き渡し日」になります。
5.まとめ
譲渡所得税は短期と長期に分かれ、短期が適用される場合には税率が39.63%と非常に高くなってしまうことが理解できたのではないでしょうか。売却を検討するときは、自分が所有している不動産が「短期に当てはまるのか」「長期に当てはまるのか」についてしっかりと確認して税額をシミュレーションしてから売却のタイミングを計ることが賢明です。
取得費用や譲渡費用についても細かく計算したい場合は、不動産会社に相談してみるとよいでしょう。
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