2社の不動産業者が仲介手数料を分割する「コブローキング」
(画像=SpeedKingz/Shutterstock.com)
アレン琴子
アレン琴子
国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、ファイナンシャルライターに転身。現在は欧州を基盤に、複数の大手金融メディアで執筆活動中。国際経済から投資、資産運用、FinTech、ビジネス、行動経済学まで、広範囲に渡る「お金の情報」にアンテナを張っている。

日本の不動産取引とは異なり、米国での不動産取引は売却・賃貸を問わず、2社のエージェント(不動産業者)が共同で1つの物件の仲介を行います。売り手・借り手が支払う仲介手数料は両者間で分割されるのですが、この形態を「コブローキング(co-broking)」といいます。

「コブローカー(共同不動産業者)」、それぞれの役割

コブローキングでは、リスティング・エージェントとバイヤーズ・エージェントが「コブローカー」として、それぞれの顧客の利益を優先させます。リスティング・エージェントは売り手・貸し手の所有する物件を市場に出し、買い手・借り手を探すサポート役です。バイヤーズ・エージェントは買い手・借り手の条件に合った物件探しをサポートする役割を担っています。

「コブローク(仲介手数料)」の割合は?

コブローキングでバイヤーズ・エージェントが受け取る仲介手数料は、「コブローク」と呼ばれています。それぞれのエージェントが受け取るコブロークの割合は、あらかじめリスティング・エージェントが取り決めます。通常50:50(フィフティ・フィフティ)ですが、最終的にはオファーされた割合ということになります。

売り物件の仲介手数料が6%、コブロークが50:50の場合、それぞれのエージェントが3%ずつ受け取るというわけです。コブロークの割合が低い物件は、バイヤーズ・エージェントは利益が低くなるため、あえてその物件を買い手・借り手に紹介しないといった、あまり良心的ではないエージェントも存在するようです。

顧客の利益より自社の利益を優先するアプローチは、「できるだけたくさんの買い手・借り手候補と巡り会いたい」と望んでいる売り手・貸し手と、「できるだけたくさんの物件をチェックしたい」と望んでいる買い手・借り手にとってマイナスに作用します。そこで、米国各地の不動産協会が運営する不動産情報MLS(Multiple Listing Service)のシステムの多くは、コブロークの割合を最低50%以上に設定することを義務付けるなど、防止策を講じています。

コブローキングのメリット、デメリット

コブローキングは、取引の関与者にさまざまなメリットをもたらします。エージェントは売却あるいは購入のどちらかに専念できるため、取引プロセスの簡潔化が図れることがメリットです。ただし、両者はそれぞれ独自の手法で物件を管理しているため、両者間のコミュニケーションがうまく機能していない場合、逆にプロセスが複雑化し取引に時間がかかるというデメリットが挙げられます。

また仲介手数料を相手方エージェントと分割することは、利益が半分に減るということです。売り手にとっては販売・貸し出しの窓口が広がり、より多くの潜在的な買い手・貸し手に物件を紹介できるほか、売却側の利益を重視するリスティング・エージェントを介し、利益の最大化が期待できます。買い手・借り手にとっては、「豊富な物件を掲載しているネットワークから、条件に合った物件を探しやすくなる」というメリットがあります。

リスティング・エージェントが両役割を担うことも

コブローキングは、法的に義務付けられているわけではありません。しかしMLSやREBNY(ニューヨーク不動産委員会)を含む、不動産取引協会に所属するすべての不動産エージェントは、売り出し・貸し出しにあたりコブローキングすることが義務付けられています。買い手・借り手がバイヤーズ・エージェントを指定していない場合、リスティング・エージェントは両方の当事者を代表することが認められています。

この場合、リスティング・エージェンは、コブローク全額を受け取ることが可能です。米国のエージェントは各州で定められた資格を、そこで営業・販売・取引を請け負うすべてのスタッフも、それぞれの職務を遂行するための資格を保有しています。こうした取り組みは消費者が安心して取引を行える、効率的で透明度の高い米国不動産取引システムの一環です。

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