敷地売却ルール緩和で、老朽化マンションの建て替え促進へ
(画像=Koshiro K/Shutterstock.com)
丸山優太郎
丸山優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している

各地で老朽化マンションが増えています。建て替えのための敷地売却のルールはありますが、認可には一定の条件が必要でした。このたび国土交通省は危険を伴う建物についてルールを緩和し、建て替えを促進することを発表しました。その背景を探ります。

こんなにある老朽化マンション

老朽化マンションはどれくらいあるのでしょうか。国土交通省の資料によると2018年現在で全国の築30年超のマンションは185万戸に及びます。日本では戦後の都市化で1970年代以降に都市部へ流入した人たちの居住場所として大量のマンションが建設されました。それらのマンションが30~40年の歳月を経て次々に老朽化しているのです。

老朽化は今後も進み2033年には約447万戸となります。これは予測ではなく、すでに建っているマンションから割り出した実数ですので事態は深刻です。

住人の80%が同意で建て替えは可能だが……

老朽化マンションを少しでも減らすには、建て替えを行うことがベストですが、それも一筋縄ではいかないのが現状です。かつてマンションの建て替えを行うには、民法の原則から住民全員の同意が必要だったため、建て替えが難しい状態でした。しかし2014年に法律が改正され住民の5分の4(80%)が賛成すればマンションを一括売却し区分所有関係を解消することによって建て替えが可能になりました。

それでも建て替えが思ったほど進まないのは2つの理由があります。1つ目の理由はマンションの老朽化と比例し、住人が高齢化していることです。それぞれに生活水準が異なり年金生活の人もいるため、建て替え費用の面で同意を得るのが困難な例が多いといわれます。

建て替えに必要なルールとは

2つ目の理由は、マンションの居住棟と敷地を一括売却できる「敷地売却制度」の適用条件が、「耐震性が不足しているマンション」に限定されていることです。そもそも2014年の法改正のきっかけになったのが東日本大震災でしたので、主に地震対策が目的だった要素が強い改正といえるでしょう。法改正により解体後に新たなマンションを建設する場合は、容積率の緩和特例も設けられています。

容積率が拡大すれば解体前よりも住戸数の多いマンションを建設することができるため、増えた分譲戸数の売却益を建設資金の一部に充当することが可能です。住民の費用負担も軽減されますので大きなメリットといえますが、対象が耐震性不足のマンション限定ではいかんともしがたい面がありました。

国土交通省がルールの緩和で支援

国土交通省もこの事態を受けて新たな対策に乗り出します。これまで耐震性が不足するマンションに限定していた「敷地売却制度」の適用条件を老朽化して危険を伴うマンションの建て替えにも適用できるようにするルールの緩和です。2020年の国会法改正に向けて建て替えの促進を支援することを発表しました。

また地方自治体がマンションの管理状態に応じて管理組合に必要な措置を求めることができる制度の導入も目指します。この制度によって修繕や改修に計画的に取り組んでいる管理組合を認定し、全国にも普及させる計画です。国土交通省はこれらの対策実施に向け、2020年の通常国会で「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正案を提出する方向です。また2020年度の予算概算要求において「老朽化マンション再生モデル事業」に20億円、「マンション管理適正化・再生推進事業」に2億7,500万円を計上し、財政面でも支援を強化する方針を発表しています。

しかしマンションは、敷地の余剰面積や立地条件が千差万別です。建て替えても戸数をあまり増やせないマンションもあるでしょう。そう考えると、すべての老朽化マンションの建て替えを促進するには、さらなる追加の支援策が必要になる可能性もあります。国土交通省がどのような対策を打つのか注目されるところです。

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