賃貸不動産,税制改正
(画像=Andrey_Popov/Shutterstock.com)
鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

確定申告の季節になり、多くのオーナーがご自身の不動産所得の計算に追われていると思います。今回は、間違いが生じやすい不動産ローンの必要経費について解説します。

不動産ローンの経費処理はやや複雑で間違えやすい

不動産所得の計算で使う必要経費の多くは、事業所得や雑所得などの必要経費と共通しています。不動産所得の計算で厄介なのが不動産ローン、つまり不動産の購入のための借入金の経費処理です。確定申告初心者は、不動産ローン関連の必要経費の処理で間違えることが多いのです。

間違いポイント1:元本の返済は経費にならない

「ローンの返済を経費と思ってしまう」は、非常に多い間違いです。ローンの返済は自分の手元資金を減らす行為なので間違えやすいのですが、実はローンの返済は「元本の返済」と「利息の支払い」に分かれており、会計処理が異なります。

元本の返済…「長期借入金」として貸借対照表上の負債の部に計上する
利息の支払い…「支払利息」として損益計算書上の費用に計上する

たとえば、以下のようなケースで考えてみましょう。

【例】1年目の初日に1,000万円の借入を行い、各年の末日に100万円ずつ返済するとともに、毎年2%の利息を支払う場合

借入時

(借方) 現預金 1,000万円    (貸方) 長期借入金 1,000万円

1回目の返済時

(借方) 長期借入金 100万円  (貸方) 現預金 100万円
(借方) 支払利息 20万円(※) (貸方) 現預金 20万円(※)
※1,000万円×2%=20万円

すると、長期借入金の残高は900万円に減ります。つまり、長期借入金は「マイナスの財産」として貸借対照表に計上された後、返済に伴って残高が減るわけです。

一方支払利息という費用は、「借りているお金の使用料」のようなものです。その意味では、管理会社に支払う不動産管理費用や水道光熱費と同じです。そのため、会計年度ごとに計上するだけで、借入金のように残高が残るものではありません。

ローンの元本は「返済するもの(負債の減少)」であり、利息は「支払うもの(費用の発生)」なのです。この性質の違いが、会計処理の違いに表れると考えてください。

間違いポイント2:利息は土地・建物に按分する必要あり

ローンを使って投資用不動産を購入する場合、借入金を「土地だけ」「建物だけ」に充てることもありますが、土地と建物の両方に充てるケースが多いです。この場合、借入金を土地と建物にどのように配分したかを明らかにする必要があり、その割合に応じて利息を按分しなければなりません。

間違いポイント3:土地分の利息は損益通算に制限あり

ポイント2で説明した按分を行うのは、所得税法における借入利息の扱いに対応するためです。借入利息は、原則全額を必要経費に算入できますが、最終的な損益が損失(赤字)となった場合、土地の購入に充てた借入金の利息は、損益通算が認められません。損益通算という節税メリットは不動産所得の特徴ですが、土地購入に充てた部分の利息には使えないのです。

以下の具体例で考えてみましょう。

【例】総収入金額300万円、必要経費の総額330万円(うち土地の購入に充てた借入金の利息は40万円)

この場合、損益計算書上の利益は以下のようになります。
300万円-330万円=▲30万円 (「▲」はマイナスの意味)

しかし、所得税法で損益通算できる金額は0円です。この赤字は、土地購入のための借入金の利息によるものであり、これがなければ不動産所得は黒字になるからです。

この扱いは、バブル期における短期的な土地売買による過度な節税を抑制するために生じたものです。昨今は当時ほど頻繁な不動産売買を見かけなくなりましたが、制度自体は残っているので計算する際は注意しましょう。

うっかりミスに気を付けて適切な処理を

以上が確定申告を行う際の、不動産ローンの経理処理の注意点です。特にポイント3は、専門家の間では常識ですが、不動産投資の初心者ぼほとんどが知らないでしょう。必要に応じて専門家に相談しながら、確定申告書を作成するようにしましょう。

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