「日本一フリーランスに優しい税理士」と称し、多種多様な職種のフリーランスを中心に支援する税理士の大河内薫さん。YouTubeチャンネル「税理士大河内薫の税金チャンネル」をはじめ、税金に関する情報をSNSで積極的に発信している。
マンガ家の若林杏樹さんとの共著『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版、通称 #フリーランス税本)は、14万部を突破するヒット作だ。
フリーランスは自ら確定申告をするが、そのための知識や明確な判断基準を持たないまま実績を積んでしまうケースは珍しくない。年収が高くなればなるほど、正しい知識の有無は納税金の差額やリスクにつながる。
年収1000万円が見えてきたら知っておくべき税金対策の知識とは?高年収フリーランスが着目すべきトピックを、具体例を交えながら大河内さんに聞く。
(取材・宿木雪樹 / 写真・大口葉)
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目指すのは「完璧な確定申告」ではなく「納得のいく確定申告」
――年収1000万円のフリーランスが税金対策として気をつけるべきポイントはありますか?
年収が上がったからといって特別な方法があるわけではありません。前提として、基本的なことができているか確認しましょう。
・青色申告(65万円の控除が可能)をする
・漏れなく経費を計上する
私が見る限り、ほとんどのフリーランスはこの「漏れなく経費を計上する」ことさえクリアできれば、高い節税効果を実感できると思います。さらに節税したいのであれば「ふるさと納税」や「iDeCo(イデコ)」などを活用するといった手段もあります。
――「漏れなく経費計上」と言いますが、最も難しいのが「どこまでが経費として認められるか」という基準ではないでしょうか。
そのとおりです。著書『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』にも詳しく書いていますが、経費の線引きというのは非常に難しい問題です。
インターネット上では「ここまでは大丈夫」「これはダメ」など無数の情報が散乱していますが、それは税務調査で認められたものではなく、あくまで一般論でしかなく、それが個人の事情に当てはまるかどうかは別問題です。同じ出費であっても、あるフリーランスにとっては経費にならないものが、別のフリーランスにとっては経費になる場合があります。
大前提として、脱税は違法行為なので絶対にダメです。しかし、売上につながるものを経費として計上することはまっとうな申告です。あとは、怖がらずに挑戦してみてはどうか、というのが私の個人的な考えです。
これまで数多くのフリーランスの確定申告と向き合って来た経験から言えますが、完璧な確定申告などそうそうできません。確定申告でミスをしてはいけないという認識は一度捨てましょう。目指すべきは「抜け漏れなく申告する」ことと、「経費について説明できるようにする」こと。「これはこういう理由で経費だ」と説明できるのであれば、勇気を持って経費計上してみてはどうか、というのが私の見解です。100点はとれずとも、自分が納得して説明できる確定申告を目指してほしいと思います。
これは経費として認められる?グレーゾーンの見分け方
――極論を言えば、説明さえできれば何でも経費にできる?
あくまで極論の話ですが、その考え方は間違えではありません。ただし、違和感のある申告内容は税務調査の対象になりやすいです。例えば、業態は変わらず経費率が前年比数倍に上がった場合、その変化に疑問を抱かれて当然です。言うまでもないことですが、嘘はいけません。
税務署は税のプロフェッショナルですが、仕事内容に関してはフリーランスのほうがプロフェッショナルです。仕事を進めるのにどんな費用が必要なのか、税務署側がわからないから確認されること自体は決して悪い事態ではありません。したがって、いかに突飛な経費であってもそれが仕事に必要なものであれば、漏れなく計上しましょう。
――経費として認められるかどうか、微妙なラインとして代表的な項目はどのようなものがあるでしょう?
例えば、美容院でのヘアカットについて。YouTubeやメディアに高い頻度で出演する都合上「身だしなみを整えることが売上に貢献する」と説明できるのであれば、それは立派な経費です。一方、自分自身が顔を出す必要のないフリーランスにとってヘアカット代は生活費の一部となるでしょう。
一方、経費計上が難しい一例として、それが生活や生存の基盤を支えるものであるかどうかがあります。例えば、コンタクトレンズは仕事をするための視力矯正役を担っているかもしれませんが、同時に生存のために必要なアイテムです。医療関連品など生存維持のために必要なものは、一般的に経費として認められません。
出張と旅行を同時にした場合、交通費はどうなる?
――では、将来的には売上につながるかもしれない出費は経費に含まれますか?
その可能性を自身が説明できるのであれば経費に含まれます。しかし、一般的に考えて「妥当性がない」と捉えられるものは難しいです。
よくあるケースが、ブログを書くために購入したというあれこれが経費に認められるかどうか。そのブログが売上を目的に、明確なビジネスモデルのもと運営されるものであれば構いませんが、「何かを買ってついでに書いたレビュー記事で、売上につながる可能性もゼロではない」程度のものだと経費としては認めがたいでしょう。
――私用の使用目的と重複した出費はいかがでしょうか。私は仕事で出張に赴いたとき私事の予定も入れますが、この交通費は出張費として認められますか?
どちらの目的が先立つかにかかっています。質問例の場合は、交通費として認められます。あくまで仕事の「ついでに」私用を済ませるのだから。一方で、「遊びたいから〇〇に行って、ついでに取材もしよう」だと経費として認められません。
公私の重複が認められる費用については、「按分」というキーワードも押さえておきましょう。フリーランスの経理において、事業用と家庭用双方に使われているものは割合に応じてその費用を分割することができます。事務所と自宅兼用のスペースの家賃や水道費、光熱費などが代表的なものですね。詳しい解説は、こちらの動画も参考にしてみてください。
繰り返しにはなりますが、こうした判断の匙加減に共通するのは、自分が納得して誰にも「仕事のための出費だ」と説明できるかどうかです。
――厳密な判断基準がないなか、その経費を説明できるかどうか悩んだらどうすればよいでしょうか?
税理士に相談するか、信頼できる著者の書籍を読むか、いずれかの方法をおすすめしたいです。フリーランスの方は知り合いから聞いた情報を頼りに確定申告をしたり、インターネット記事を調べて経費を判断したりするケースをよく見かけますが、いずれも不要な不安や誤った情報を増やす結果につながりがちです。
説明できる無理のない確定申告を目指して
高年収フリーランスの節税を支えるのは基本の「抜け漏れなく確定申告をすること」だと教えてくれた大河内薫さん。そのための判断基準が自分にしかないからこそ、確定申告の難易度は高く感じるのだろう。抜け漏れなく確定申告をするためのポイントは下記の4点だ。
・「仕事のための出費」と説明できる理由があるかどうかで経費を判断
・先行投資として経費計上する場合は事業内容を基準に判断
・家庭用や私事と重複する経費は目的を基準に判断、または按分
・確定申告や税務調査を恐れず、完璧にこだわらないスタンスで確定申告を
ところで、本記事でも出てきた税務調査。年収1000万円を超えたフリーランスにとって、税務調査は一抹の不安を覚えるものではないだろうか。【大河内薫さんに聞く・中編】では、税務調査の目的や、税務調査対策としてフリーランスが準備すべきことを、高年収者の例を挙げて聞く。
(【大河内薫さんに聞く・中編】につづく)
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