不動産投資で黒字倒産してしまう仕組みと予防策
(画像=takasu/Shutterstock.com)
中林準
中林準
サラリーマンとして経理・財務の仕事をこなしがら、社会人2年目(2011年の時に区分マンション購入から不動産投資を始め、2018年に1棟マンションを購入する。現在は都内に4区分マンション、1棟マンションを所有し、年間グロス家賃収入は約2000万円。過去に中国駐在経験もあり。所有資格は、米国公認会計士、日商簿記1級、CFP、1級FP、宅地建物取引士、管理業務主任者。若手のサラリーマン・OLを中心にした不動産コンサルティングも行っている。

「黒字倒産」という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれません。しかし「なぜ黒字なのに倒産するのか」を説明できる人はあまり多くないのではないでしょうか。黒字倒産は起こり得る業種とそうでない業種があり、その中でも不動産投資家が営む賃貸業は「黒字倒産が起こり得る業種」と言われています。

不動産投資ではよくキャッシュフローという言葉が使われます。ここで言うキャッシュフローとは税金を考慮していない税引前のキャッシュフローであることがほとんどです。

黒字倒産と税金は密接に関係しているため、税金の仕組みを知ることは中長期的に賃貸経営を継続していく上でとても役に立ちます。今回は税金と深く関係する黒字倒産について、またその予防策についてお伝えしていきます。

不動産投資における黒字倒産の原因は減価償却費

最終的に自分の手元に残るキャッシュフローを最大化するためには、税金はできる限り少なくする必要があります。税金を少なくするためには、税務上の利益である益金を減らし、税務上の損失である損金を増やすのが最もシンプルな方法です。

損金の一つに減価償却費がありますが、これは実際のキャッシュアウトは伴わないものの損金算入することができる、節税効果の高い費用と言えます。

賃貸経営の所得計算は比較的簡単で、家賃収入から減価償却費と諸経費を差し引いた所得に課税されます。

不動産投資では減価償却費が損金の大部分を占めるケースが多く、これを計上できることで税金をかなり抑えることができます。減価償却費は計上できる年数が決まっており、新築の場合は法定耐用年数で償却され、中古物件の場合は以下のように算出します。

(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%=減価償却費償却年数

例えば、法定耐用年数を超えている木造物件であれば最短の4年が償却期間です。

この場合、償却期間が過ぎた5年目以降は損金計上できる費用がなくなり、多くの税金を支払うことになるケースがあります。こうして手残りのキャッシュフローから税金を払い切れなくなるのが、不動産賃貸業における黒字倒産の典型的な例です。

黒字倒産が起きるケースは他にもありますが、ひとまず減価償却費と黒字倒産の関係を押さえておきましょう。

物件購入時に中長期的な税込みシミュレーションを

黒字倒産を避けるためには、物件購入時に税金を含めたシミュレーションをすることが重要です。

例えば、耐用年数を超えた木造物件を購入するケースで、以下のような状況だったとします。

家賃収入:1,000万円
減価償却費:600万円
諸経費:200万円
ローン返済額(金利部分):200万円
課税所得:0円

ローン返済額(元金部分):500万円
税金支払い:0円

この場合、減価償却費があることによって年間100万円(=家賃収入-諸経費-ローン返済額【元金+金利】)のキャッシュフローが手元に残ります。

しかし減価償却費を計上できない5年目以降は、以下のようになってしまいます。(税率は20%とする)

家賃収入:1,000万円
諸経費:200万円
ローン返済額(金利部分):200万円
課税所得:600万円

ローン返済額(元金部分):500万円
税金支払い:120万円

減価償却費がなくなったことで、キャッシュフローは年間20万円(=家賃収入-諸費用-ローン返済額【元金-金利】-税金支払い)の赤字になってしまいます。

また不動産投資では家賃収入は経過年数とともに減っていくことが多く、さらに物件の老朽化によって修繕が必要になる可能性が高くなっていきます。

これらを踏まえて、物件を購入する時は必ず税金も含めたシミュレーションをするようにしましょう。不動産業者が提示してくるシミュレーションは、税金を考慮していない数値で実態に即していない場合があります。

不動産業者が悪いという話ではありません。税率は個人と法人で異なりますし、個人であっても給与所得の金額によって異なります。それらの情報をすべて把握していない業者に税金を考慮したシミュレーションを求めること自体が難しいのです。

大事なことは、税引前のキャッシュフローではなく、税引後のキャッシュフローが最終的な手残りになるという認識を持つことです。その認識を持てば、自然と中長期のキャッシュフローシミュレーションを税込で考える習慣がつき、より実態に近い数値を把握できるようになるでしょう。

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