「一定以上の年収を稼ぐためには、仕事についてスキルの提供ではなく、困りごとを解決することだととらえる必要がある」
「派手髪iOSエンジニア」のキャッチフレーズを持ち、フリーランスとしてヘルスケアアプリやインバウンド対策アプリなど今注目のアプリの開発に携わるAkioさん(@akio0911)は、独自の視点で仕事を再定義し、「プロフェッショナルとしてのスキルを強みに働く」という典型的なフリーランスのイメージを覆す。その考え方はまさに、事業を立ち上げる起業家のようでもある。
中編ではその考えをもとに、フリーランサーが高年収を得るための方法をより具体的に深堀りした。(取材・宿木雪樹 / 写真・大口葉 / 特集協力・一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)
▼前回のインタビューはこちら
・令和のフリーランスに必要な「武士のようにフレキシブルな仕事観」とは【Akioさんに聞く・前編】
スキルと年収の落とし穴―顧客ニーズを理解せよ
――フリーランサーが年収を高めるためには、職人としてのスキルも必要ではないでしょうか?
スキルを高めることはもちろん重要です。しかし、「スキルを高めれば高めるほど年収が上がってしかるべき」という考え方は正しくないでしょう。そのスキルに市場価値があるのかを先に考えるべきです。
かつて、東芝は活用事例をイメージせずに小さなハードディスクを作りました。ノートPCより小さいコンピュータの利用価値がわからず、売り先に困っていたそうです。売り方を考えずにスキルだけを高めるフリーランスは、これと同じ状況になり兼ねません。
後にこの小さなハードディスクは、活用事例から先に考え、それに必要な技術を求めていたアップルのジョブズによって見いだされ、iPodを生み出しました。市場価値のある場所にスキルを売れば、結果が導き出せます。
SNSなどで「自己研鑽に時間や費用をかけているのだから、相応の対価をいただきたい」というフリーランスの方の発言を目にすることもありますが、そのスキルのニーズ調査は行ったのでしょうか?まずはしっかりニーズを確認すること。その答えが明確にあれは自ずと相応の対価をいただけるでしょう。
――Akioさんはどのように年収やキャリアのステップアップを実現しましたか?
技術が好きでとことん追求しているエンジニアには、スキルの面で適いません。私自身スキルを売って商売しているという感覚はありません。
私はもともと教育が好きでした。家庭教師のアルバイトをしていた過去もあり、誰かが困っているとき、わかりやすく解説することで課題を解決できることにやりがいを感じていました。ですので、私はエンジニアスキルと掛け合わせ、知識を伝えることで誰かを助けることを商品にしようと考えたんです。
ベンチャーを中心に、開発チームを作ることに課題を抱いている企業は数多くいます。エンジニアとしてのスキルセットと、教育を通じた体制作り、周辺の情報整理。そういったものを包括した状況改善を提供するスタイルを、フリーランサーとしての働き方の1つとしています。
自らのニーズを見つけるきっかけとなった原体験
――誰かを助けることを商品にしよう、と思うようになるきっかけはありますか?
社会人となり初めて就職した会社に、私はプログラミングスキルを一定以上つけた状態で就職しました。一方、同期のほとんどはプログラミングスキルがない状態です。入門書を渡されたっきりで、就業時間外に学ばなければなりませんでした。
私は同僚たちに自分の知識を伝えようと試みたのですが、上司からは「お前はそんなことはしなくていい」と叱られました。サービスモデルの都合上、プログラムを書ける私がどんどん書いたほうが儲かる仕組みだったのです。
自分は誰かを助けたいと思っているのに、助けたら叱られる……。こうした葛藤の経験は、フリーランスになってからの私に大きな影響を与えています。会社や誰かを助けることが商品になるビジネスモデルを考えて自ら提供すれば、こうしたストレスは生まれないと気づいたんです。
「やりたくないこと」は妥協しない
――葛藤から現在の働き方が導き出されたのですね。
やりたくないことをあきらめない、妥協しない姿勢が自身のブランディングや提供する価値につながっていきます。
例えば、私は満員電車が大嫌いです。絶対に乗りたくない。かつては満員電車に乗ることを避けるためにどうしたらよいのか考え、デイトレーダーを目指したことがありました。本気で満員電車に乗りたくないからこそ、四季報を熟読し、簿記検定を取得しました。ちょうどそのころインターネットの普及からフレキシブルな働き方が実現可能になったこともあり、それまで培ってきたスキルのあるエンジニアとして満員電車を回避することが可能だと考え、現在のキャリアにシフトしましたが……。さまざまな企業のビジネスモデルや将来性について知ることができ、その感覚は現在の仕事や業界事情の把握にも役立っています。今だって、勤務している会社までの道のりは最短ルートでなく、満員電車にならないルートを選んでいますよ。(笑)
やりたくないことに関して、私はメモアプリに逐一記録しています。リストのなかには数百個のメモが蓄積されています。やりたくないことリストに限らず、週に1回はこうしたメモを見返す時間を取っています。毎日のルーチンワークも大切ですが、ルーチンワークは思考を止めてしまうデメリットもあるので、時折自分と向き合って思考する時間も必要だと思います。
企業で働くこととフリーランスとして働くことを比較すれば、後者のほうが自分自身で選べることの範囲が広いことは言うまでもありません。関わる事業も、取引するクライアントも自分次第です。数百個のメモに照らし合わせてこうした選択を導いた結果、キャリアが形成されていきます。
――では、キャリア形成について意図的な計画はないのでしょうか?
そうですね。振り返ればどんなキャリアでもストーリーを紡ぐことができますが、その当時の行動をした自分が何かを意図していたわけではありません。
会社で困っている同僚を助けようとした私は、その後につながる気づきを求めて助けたわけではありません。一方で、振り返ればあの体験があったからこそ、今の働き方があります。
その時の自分が何を求めているのかを的確に感じ、それを行動に移していくことが、何よりもの価値を生み出していくための地盤となるのではないでしょうか。
年収を高めるのはスキルアップではなく自己探求
Akioさんのキャリアを成功に導いていたのは、スキルアップそのものではなく、自分のしたいこと、したくないことに常に向き合う姿勢と、市場ニーズとの照らし合わせだった。
・スキルを高める前に、そのスキルの市場価値を調査する
・葛藤やストレスは、価値を生み出すための原体験になる可能性がある
・「やりたくないこと」には妥協しない
フリーランスになると肩書に紐づくスキルや企業との関係性に目が行きがちだが、実は年収アップのヒントは自分自身の価値基準や行動指針にあるのかもしれない。
後編では、Akioさんの時間術について伺った。フリーランサーにとって死活問題でもある「時間」という資本との向き合い方とは。
(【Akioさんに聞く・後編】につづく)
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