【相談】賃貸物件内に設置していた空調設備が故障したということで、賃借人からその修繕を求められました。賃貸人が修繕義務を負わなければならないのでしょうか。
私は、店舗用の3階建てのビル1棟を所有しています。
そのビルの各階には、もともと空調設備が設置されていたところ、5年前より、それらの空調設備も含めてビル1棟を貸し出しました。
賃借人は、そこでレストラン経営を行っています。
先日、その賃借人より、1階と2階の空調設備が故障したので、修繕してほしいとの要望がありました。
私は、賃借人に対し、賃貸借契約締結の当時に、たまたま残っていた空調設備を使用することを認めたに過ぎず、空調設備を修繕したり、取り替えたりする義務まではないものと考えています。
しかし、その賃借人は、「賃貸借契約の重要事項説明書における設備の項目に、「空調設備あり」と明記されており、私は、空調設備付きの物件を借りたのだ。」、「だから、空調設備の修繕は、賃貸人が行うべきだ。」と主張しています。
私は、空調設備を修繕する義務まで負うのでしょうか。
【回答】賃貸借の対象に、空調設備も含めていた場合、原則として、賃貸人が空調設備の修繕義務を負うことになります。
当事者間において、賃貸借の対象に、空調設備等の特定の設備を含める合意があったと判断された場合、原則として、賃貸人がそれらの設備の修繕義務を負うことになります。
ただし、その場合であっても、賃貸借契約書等において、賃貸人がこれらの設備の修繕をしない旨、及び、賃借人がこれらの設備の修繕義務を負う旨の特約が規定されている場合には、賃借人が修繕義務を負うことになります。
【解説】
修繕義務の内容・範囲
賃貸人の修繕義務は、賃貸借契約締結時に予定されていた目的物の性状の範囲内での使用に必要な限度において、認められることになります(東京地裁平成23年7月25日判決)。
また、賃貸人の修繕義務の範囲が問題となった裁判例において、「賃貸借契約の締結時にもともと設備されているか、あるいは設備されているべきものとして契約の内容に取り込まれていた目的物の性状を基準として、その破損の為に使用収益に著しい支障の生じた場合に、賃貸人が賃貸借の目的物を使用収益に支障のない状態に回復すべき作為義務をいうのであって、契約締結時に予定されていた目的物以上のものに改善することを賃借人において要求できる権利まで含むものではない」と判断されています(東京地裁立川支部平成25年3月28日)。
つまり、賃貸借契約締結時の目的物の状態、賃貸借契約の内容、賃借人の使用目的等から、賃貸人の修繕義務の内容・範囲が判断されることになります。
以下、具体的に見てまいります。
設備付きの賃貸借の場合の修繕義務
賃貸借の対象に、特定の設備を含めたときは、原則として、賃貸人が設備の修繕義務を負うことになります。
設備には、空調設備、給湯器、エアコン、照明等が考えられます。
そして、賃貸人と賃借人との間で、特定の設備を含める旨の合意があったか否かの判断においては、①賃貸借契約書等において、賃貸借の内容として、特定の設備が明記されているか、②賃借人の使用目的等が考慮されることになります。
東京地裁平成20年11月28日判決においては、①賃貸借契約書の重要事項説明書の設備の項目において、「冷暖房有」と記載されていたこと、②賃貸人は、対象物件において、居酒屋を経営しており、賃貸人の使用目的を考えると、冷暖房設備が必要であったこと等が考慮され、当事者間において、賃貸借の対象に、冷暖房設備を含むことの合意が成立していたと判断しました。
設備付きの賃貸借であっても、賃貸人が修繕義務を負わないためには?
上述のとおり、原則として、賃貸借の対象に、特定の設備を含めたときは、賃貸人がそれらの設備の修繕義務を負います。
しかし、賃貸人が、あくまでも、契約締結時にたまたまある設備を、単なる好意で使用することを認めたに過ぎない場合には、その原則を貫くと、賃貸人にとって不合理ともいえます。
仮に、あくまでも好意で使用させるという場合には、賃貸人がこれらの設備の修繕をしない旨、及び、賃借人がこれらの設備の修繕義務を負う旨を明示しておく必要があります。
この場合には、特約の効力が認められ、賃貸人は修繕義務を負担しません。
本件について
本件では、①賃貸借契約の重要事項説明書における設備の項目に、「空調設備あり」と明記されていること、②賃借人の対象物件の使用目的はレストラン経営であり、その使用目的を考えると、空調設備は必要であること等から、当事者間において、空調設備は賃貸借の対象とすることの合意が成立していたと判断され得ます。
そして、賃貸借契約書等を確認いただいて、空調設備の修繕義務を賃貸人が負わず、賃借人が負う旨の特約が規定されていない場合には、賃貸人であるご相談者が空調設備の修繕義務を負うことになります。
本記事は不動産投資DOJOの転載記事になります。
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