借主が行方不明のとき、その部屋を片付けてしまっても大丈夫?
森春輝
森春輝
弁護士(第二東京弁護士会)|2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。

【相談】借主が行方不明のとき、賃貸借契約を解除して部屋に残った荷物を自分で片付けてしまっても大丈夫ですか?

所有するアパートの借主のひとりが数か月全く連絡が取れなくなりました。部屋の郵便受けにも郵便物がたまっている状況です。隣の部屋の借主に話をきくと、いなくなった借主は借金を重ねており、夜逃げしたのではないかとのことでした。

賃料も支払われていませんので、賃貸借契約を解除し、その部屋に残った荷物等を片付けて次の借主を探そうと思っています。

その部屋に立ち入って残った荷物等を自分で片付けてしまっても大丈夫でしょうか。

【回答】借主が行方不明の場合でも、勝手に部屋を片付けることはできません。

借主が行方不明で連絡が取れない場合でも、勝手に部屋に立ち入って残された荷物を片付けてはいけません。借主を相手に建物明渡請求訴訟を提起して勝訴判決を取得し、強制執行によってその部屋の明渡を実現する必要があります。訴訟を提起するときは、公示送達という方法を利用します。

【解説】

借主が行方不明でも、勝手に部屋を片付けてはいけない!

借主が行方不明になってしまった場合でも、オーナーは勝手にその部屋に立ち入って荷物を片付けることはできません。

民法には自力救済禁止という原則があります。これは、権利を実現するためには個人の実力行使によってはならず、法的手続によらなければならないという原則です。勝手に部屋を片付けることはこの自力救済禁止の原則に抵触してしまいます。

そのため、借主が行方不明の場合であっても、賃料不払等を理由に賃貸借契約を解除して部屋の明渡しを求める訴訟を提起し、勝訴判決を取得したうえ、その判決に基づいて強制執行を行わなければなりません。

借主は行方不明だから文句を言う人はいないと思って法的手続によらずに部屋に立ち入って荷物を片付けたりしてしまうと、オーナー側が自力救済禁止原則違反で不法行為となってしまうおそれがありますので、注意が必要です。

行方不明の借主相手にどうやって訴訟する?

訴訟を提起し、被告に訴状が送達されることで、その訴訟は審理を進めることができる状態になります。逆に、訴状が送達されないと、いつまでもその訴訟の審理を進めることはできず、判決も出してもらえません。

借主が行方不明の場合、まさにこの点が問題となります。借主の行方が分からないのですから、通常の方法では訴状を送達することができないのです。

もっとも、このようなときは、公示送達という制度を利用することで、被告の居場所が分からなくても送達をすることができます(民事訴訟法110条~113条)。

公示送達とは、被告の居場所が分からず通常の方法では送達ができない場合などに利用される送達方法で、裁判所書記官が訴状をいつでも交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示し、それから2週間を経過することで訴状を直接交付したときと同じ効力が生ずる送達方法です。

公示送達を利用するには、裁判所書記官に公示送達の申立てを行います。その際、被告の居場所が分からないこと示すため、被告の住民票や、被告の最後の住所を調査した調査報告書等を添付する必要があります。調査報告書は、被告が確かにその部屋に住んでいないということを示すため、例えば部屋の外観や郵便受けの状況、電気やガスのメーターの状況、近隣住民からの聴取結果等を詳細に記載します。

公示送達後の手続はどう進む?

公示送達の場合、借主は訴訟が起されたことを認識できないことがほとんどですので、答弁書も提出せず、第1回口頭弁論期日にも出頭しません(もっとも、ごくまれに裁判所の掲示板を見て自分に訴訟が提起されたことを知って応訴する人もいるようです。)。

被告が第1回口頭弁論期日に出頭せず答弁書も提出しない場合、通常は争う機会があるのにあえて反論していないとして、原告が主張した事実を被告が認めたものとみなされます(民事訴訟法第159条第3項、同条第1項)。これを擬制自白と言います。

裁判所は当事者が認めた事実(争いのない事実)と証拠に基づいて判決を出しますが、被告が出頭も答弁書の提出もせず擬制自白が成立すると、証拠がなくとも、原告の主張する事実を基に判決が出されます。

しかし、公示送達の場合、被告は自分に訴訟を起こされたことを認識できず、事実上反論の機会がないことが多いため、擬制自白が適用されません(民事訴訟法第159条第3項ただし書き)。そのため、被告が出頭しないことが予想されたとしても、賃料不払い等による賃貸借契約解除の有効性を立証しなければならないことに注意が必要です。

被告が行方不明で出頭も答弁書の提出もしない場合、ある程度の証拠があれば通常1回で口頭弁論が終結し、被告である借主に部屋の明け渡しを命ずる判決が出されることになります。

そして、その判決に基づいて強制執行をすることにより、ようやく部屋の明渡しを受けて次の借主を探すことができるようになるのです。

おわりに

公示送達を利用するためには、借主が部屋に住んでいないことの調査をする必要がありますし、擬制自白がないため訴状には賃貸借契約を解除して部屋の明渡しを求めることの要件を不足なく記載して証拠も用意する必要があります。

そのため、行方不明の借主に対して訴訟を提起し、強制執行をする場合は弁護士に相談することをお勧めいたします。

本記事は不動産投資DOJOの転載記事になります。
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