不動産投資での「消費税の金地金還付スキーム」が東京高裁で控訴棄却されたワケ
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鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU Online」「KaikeiZine」「朝日新聞『相続会議』」「マネーの達人」「納税通信」などWEBや紙面で税務・会計に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著」。

不動産投資では固定資産税や所得税などさまざまな税金がかかります。これらの税金を抑えるために、さまざまな節税策が講じられていますが、なかには判決により突如使えなくなるものも少なくありません。

今回はそんな節税策の一つ「消費税の金地金還付スキーム」について紹介するとともに、認められなくなった背景について解説します。

不動産投資における金地金スキームとは

不動産投資における金地金スキームとは、消費税が課税される金地金の売買を繰り返すことで消費税の還付を受けようとする手法です。この手法を紹介する前に消費税の仕組みについて再確認しておきましょう。

消費税の仕入税額控除は「二重課税防止目的」だから非課税は控除不可

居住用不動産の賃貸事業にかかる仕入や経費とともに支払った消費税は、マイナス処理(仕入税額控除)することはできません。なぜなら居住用不動産の賃貸料などに課される消費税が非課税だからです。

消費税の仕入税額控除の理由は、支払いの都度発生する消費税の累積による二重課税を防ぐことにあります。例として100円の商品を仕入れて500円で売った場合で確認してみましょう。

100円で商品を仕入したときに10円の消費税を消費者として納税、売上500円の消費税分50円を消費者から預かっています。単純に50円を納税すると10円分の消費税を余分に納めることになるのです。そのため「50円-10円=40円」とし二重課税にならないようにしています。

ただし前提条件として「消費税を預かっている」ことが必要です。「賃貸料収入が非課税」ということは、預かった消費税がなく二重課税を防ぐべき理由もありません。結果、仕入税額控除をする必要もないのです。

そのため実際の取引で居住用のアパートの建設・購入に伴い消費税を払っていても仕入税額控除はできません。

「金=課税」「居住用不動産=非課税」をついた消費税還付スキーム

見方を変えれば、非課税事業が主業務であってもどこかに課税事業を混ぜ込めば一部仕入税額控除ができることになります。この仕組みを使ったのが「金地金の消費税還付スキーム」です。消費税の課税対象である金地金の売買を行えば支払った消費税の一部を「金地金の課税売上に対応する課税仕入」として控除することができます。

さらに、「最初の課税期間に金地金売買を行い、同時に建物の購入の契約を行う」といった工夫をすれば、賃貸事業がまだ動いていない状態、つまり非課税売上0円の状態で消費税課税の金地金の売上だけが発生しているため、建物購入の消費税をすべて金地金の課税売上に対応する課税仕入れとすることができます。

結果、莫大な消費税の還付を受けることができるのです。

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「消費税還付スキーム」としての鉄板が2019年9月26日の東京高裁で控訴棄却

消費税の節税手段として知られるようになった金地金による還付スキームですが、2019年9月26日の東京高裁で納税者側の控訴が棄却されました。

国税と納税者の争訟の対象となった事例では、一つの課税期間で建物の購入契約と少額の金地金売却を行い、建物の引き渡しが行われていない状態で建物購入に伴う課税仕入れの消費税を「金地金の課税売上の消費税に対応するもの」として全額控除し、消費税の還付を受けました。

しかし東京高裁は「建物の契約のみで引き渡しが行われておらず譲渡の実態が伴っていない。にもかかわらず納税者が勝手に建物の購入日を決め、建物購入の消費税だけを控除するのは課税の公平を害する」とし、契約日ではなく実際の引き渡し日に建物が譲渡されたという判決を出しました。

この事例では、契約日の属する課税期間の次の課税期間に引き渡しが行われています。建物の購入は課税対象である金地金の売上しかない期間ではなく、非課税である賃料などが発生する消費税非課税の期間に行われたということになります。

「節税ありき」を国税は嫌う

今回は「建物の購入日につき実態を無視して自由に決めることはできない」という判決による還付スキームの封じ込めに過ぎません。ただこれ以外の点でも、還付スキームはこれまで否認されてきた経緯があります。

過去は自動販売機による消費税還付スキームが横行していましたが、こちらは2010年4月の税制改正で、すでに封じられています。

国税も裁判所も節税策が適切かどうかを検討する場合、経済的な合理性や課税の公正性を判断基準にしています。そのため納税者側も節税策を考えるときは「節税ありきか」「課税回避の意図はないか」「合理性があるか」といった点を確認する必要があるのです。

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