国外財産調書制度は2012年度税制改正で創設された制度です。しかしそれでも制度内容についてしっかりと認識していない投資家は少なくありません。ただ今後は「制度を知らなかった」だけでは済まない状況がより濃厚になりそうです。今回は、国外財産調書制度の概要と税制改正を含む状況について解説します。
2020年度税制改正で国外財産調書がより厳格に
2019年7月に京都在住の会社役員が大阪国税局に告発されました。その理由の一つが「国外財産調書の未提出」です。この会社役員は知人の日本人男性名義で家具の輸出入販売を行い、累計で2億円超の所得があったにもかかわらず申告をせず所得税を免れた疑いが持たれました。さらに所得のうち約7,300万円を香港の口座に入金していましたが、こちらの国外財産調書を提出しなかったとされています。
国外財産調書を提出しなかったことを理由とした告発は今回が初めてですが、このような未提出は珍しくありません。国税庁が発表した「2017年分の国外財産調書の提出状況」によると提出件数は9,511件、財産の合計額は3兆6,662億円です。過去の状況は、2016年が9,102件で3兆3,015億円、2015年は8,893件で3兆1,643億円なっており徐々に提出件数・財産の合計額が増えています。
これらを踏まえると制度が完全に機能しているとはいえず未提出の資産家はまだまだ多いと推測できるでしょう。
国外財産調書制度とは
国外財産調書制度の概要について確認しておきましょう。国外財産調書制度は2012年の税制改正に伴い2014年1月から開始した国外財産に関する明細の提出制度です。年末における国外財産の保有高が5,000万円を超える人については、保有する年の翌年3月15日までに提出することが義務付けられています。
保有高は原則として年末時点における時価あるいは見積額など相続税法の財産評価方法を参考に評価した金額です。「義務付けられている」ということは、提出しない場合や不正があった場合には罰則があります。罰則の内容は以下の通りです。
1.国外財産調書に虚偽記載をした場合や正当な理由なく提出しなかった場合 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(期限内未提出については情状酌量あり)
2.国外財産調書記載の国外財産につき所得税の申告漏れがあり、かつ、過去において国外財産調書を期限内に提出しなかったり、申告漏れの国外財産につき記載がなかったりした場合(つまり所得税逃れと国外財産無申告がセットになっている場合) 申告しなかった国外財産に関する所得税に伴う過少申告加算税を5%加重
ただし逆に国外財産調書を正確にかつ期限内に提出していれば後日記載した国外財産につき所得税・相続税の申告漏れがあったとしても過少申告加算税は5%軽くなります。
税制改正で厳しくなった国外財産調書制度の変更点
2019年の事件を受けてなのか、国外財産調書制度が2020年度の税制改正でより一層厳しくなりました。改正内容は以下の通りです。
1.納税者が税務当局の職員から指定された期限までに国外財産調書記載に必要な資料を提示・提出しない場合、申告漏れに関する加算税については次にように取り扱う
- 国外財産調書制度の提出があっても軽減措置は適用しない
- 加算税を10%加重する
2.上記資料の提示・提出が指定期限までになく、かつ、外国の税務当局に対して情報交換のための資料の入手・提供の要請が行われた場合、この要請時から3年以内は更正・決定が可能となる
今回の改正は国外財産調書だけでなく国外財産の取得・運用・処分に関する資料に関するものです。国外預金の出入金明細書などの提出が求められても指定期限内に提出がない場合、加算税がより重くなる措置が取られたことになります。さらに海外の税務当局に国外財産に関する情報提供が求められた場合、納税者側がどう行動するかに関係なく3年間は当局により課税額が増額されることになるのです。
この改正は、2020年分の所得税と2020年4月1日以降に生じた相続・遺贈により取得した財産に課される相続税について適用されます。
不動産投資家が気を付けるべきポイント
国外に不動産などの財産を保有する投資家の中には「税務当局に財産の保有状況や金額を知られたくない」という人も多いかもしれません。しかし「海外の財産ならばバレない」という時代は終わりました。国外財産調書制度だけでなく国外送金等調書制度や税務に関する情報交換制度の整備などにより海外の財産に関する情報は容易に入手することが可能です。
特に今回の改正では、情報交換制度を巧みに活用して税逃れをさせまいとする税務当局側の意思がうかがえます。余計なペナルティを受けないためにも国外財産調書を正確に記載し、期限内に提出することを心がけておきましょう。
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