資産の承継方法には、生前贈与と相続がありますが、不動産を譲り渡す場合はどちらが有効なのでしょうか。
生前贈与と相続の優位性はケースバイケースですが、それぞれの特徴を知っておくことは重要です。また、どちらを選択するのかで取得した不動産の資産運用にも影響するといわれています。
今回は、不動産の取得方法において、生前贈与と相続の特徴、受贈者や相続人が喜ぶ不動産承継について解説します。
目次
不動産の資産承継は生前贈与、相続のどっちがいい?
生前贈与と相続の違いは、所有権移転のタイミングで所有者が生きているか亡くなっているのかの違いです。
当然ながら、所有者が亡くなってしまっては贈与とならず、相続しか選択することができません。そのため、それぞれのケースを把握したうえで早めの検討を進めるようにしましょう。
生前贈与がよいケース
生前贈与は所有者と将来の相続人が話し合いをしながら意思決定ができるという特徴があります。
一般的には、下記のようなケースに生前贈与が選択されることが多いです。
相続税が多いと予想できる場合
生前贈与と相続はそれぞれ贈与税と相続税が発生しますが、一般的に相続税の方が優遇されています。どのようなケースでも一律で引くことのできる基礎控除額は、相続税が3,000万円+(600万円×法定相続人の数)です。一方の贈与税では、110万円と大きな差があります。
基礎控除額を差し引き、残った額に税率と控除額(基礎控除額とは別)を適用し、納税額を算出します。
基礎控除後の課税価格 | 相続税率 | 贈与税率(一般税率) | 贈与税率(特例税率) |
---|---|---|---|
1,000万円以下 | 10%(控除額0) | 40%(控除額125万円) | 30%(控除額90万円) |
1,500万円以下 | 15%(控除額50万円) | 45%(控除額175万円) | 40%(控除額190万円) |
3,000万円以下 | 15%(控除額50万円) | 50%(控除額250万円) | 45%(控除額265万円) |
5,000万円以下 | 20%(控除額200万円) | 55%(控除額400万円) | 55%(控除額640万円) |
それでも相続税が発生する程に資産が多い場合などは、特定の不動産を先に贈与しておくことが有効です。
たとえば、相続税が支払えない場合、他の相続人に相続税を肩代わりしてもらったりすれば、今度は贈与税が発生する可能性があります。
相続することで、相続人に不都合が起こる場合は贈与の方が有効であるといえます。
特定の人に不動産を渡したい
相続は遺言書によって、特定の人に不動産を相続させることが可能です。
しかし、遺産分割協議によって相続人全員が合意した場合は、遺言よりも遺産分割協議の結果が優先されてしまいます。
そのため、被相続人が特定の相続人に確実に不動産を渡すためには生前贈与が有効です。
特定の不動産を特定の人に生前贈与で渡すことで、大きな相続トラブルを未然に防ぐことができます。
不動産所有者が認知症になる可能性がある
所有者が認知症を発症した後の遺言書は無効になります。
そのため、相続発生時に遺言書があった場合はそもそも有効か無効かで揉めることが多く、遺産分割協議が長期化するおそれがあります。
遺言書を作成したということは被相続人に何らかの意思があったと考えられますが、遺産分割に反映されることは難しくなります。
そのため、不動産所有者が認知症を発症する可能性がある年齢であるならば早めの生前贈与を行い、相続トラブルを避けるようにしましょう。
相続がよいケース
不動産を相続した方がいいケースについて紹介します。
節税したい
贈与税よりも相続税の方が、基礎控除額が大きく、税率が低いため、税金を抑えたいのであれば相続を選択しましょう。
ここでは具体例を挙げて贈与税と相続税の違いを解説します。
課税額5,000万円の資産を成人した1人息子に贈与する場合の贈与税は、以下のとおりです。
5,000万円-110万円(基礎控除)=4,890万円
4,890万円×55%(税率)-640万円(控除額)=2,049万5,000円(贈与税)
一方、息子に相続した場合の相続税は、以下のとおりです。
※被相続人に配偶者がいない場合
5,000万円-3,000万円(基礎控除)-600万円(法定相続人控除)=1,400万円
1,400万円×15%(税率)-50万円(控除額)=160万円(相続税)
このように、相続は贈与よりも大きな節税効果を見込むことができます。
遺産分割を簡単にしたい
生前贈与することで特定の人に不動産を渡すことができますが、生前贈与を受けたからといって相続の計算から完全に除外されるわけではありません。
そのため、生前贈与と相続の両方が発生することで遺産分割協議が複雑になることがあります。
すべて相続によって遺産分割する場合は、生前贈与分を考慮する必要もなく、遺産分割協議を簡素化することができます。
資産承継として賃貸経営が有効な理由
不動産の中でも、賃貸経営している不動産は資産承継として有効であるといわれています。具体的にどういったメリットがあるのかを解説します。
相続税評価額を大きく抑えることができる
相続税は累進課税制度をとっており、評価額が大きくなるにつれて税率も上がります。よって評価額を低くすることが相続税対策のポイントです。
賃貸経営をすることで、「貸家建付地」によって土地の評価額、「借家権割合」によって建物の評価額を抑えることができます。
上記の制度を利用することで、賃貸経営をしている不動産を相続すると、課税額を半分以上減額できる可能性があります。このような理由から、相続税対策として賃貸経営が有効といわれています。
インフレにも強く、家賃収入も得られる
物価上昇によって貨幣の価値は大きく変動しますが、不動産は貨幣ほど大きな影響を受けないといわれています。
そのため、1億円を貨幣で保有するよりも1億円の価値があるマンションを保有する方がリスクは少なく、資産価値を担保できます。
また、同じ貨幣でも家賃については物価ではなく周辺の状況によって定められることが多いです。そのため、インフレで家賃が上がれば、今まで以上の家賃収入を得ることができます。
このように、賃貸経営は経済動向の影響を小さめに抑えて資産管理できる方法です。
借入があることで、相続財産を少なくできる
相続では、借り入れも財産の一部とみなされます。
これにより相続の評価額計算においてもマイナスで計上することができるため、結果的に相続税を減らすことができます。
ただし、借入の利子があることで賃貸経営自体の利益が圧縮されてしまうことがあるため、相続税は減るが利益も減るという事態になるおそれもあります。
【土地活用をもっと詳しく知る】
受贈者や相続人が喜ぶ不動産とは
取得して嬉しい不動産とは、当然資産価値が高い不動産でしょう。では、どのような不動産が、受贈者や相続人の喜ぶ不動産なのでしょうか。
アパートやマンション
アパートやマンションは高収益で価値が担保できる不動産の代表です。
人気のエリアにあるマンションは家賃収入も安定し、売却する際も非常に高い価格で売ることができます。
その一方、土地を買い、建物を建築するマンション経営はリスクを伴います。利益を得るまでに時間がかかる上に、初期投資が大きいからです。
しかし相続で取得したアパートやマンションはこういったリスクがなく、既に収益化されているマンションであればデメリットがない状態です。
また、アパートよりマンションの方が耐震性や断熱性、遮音性などに優れ資産性が圧倒的に高い傾向があります。
建築の際は、マンションの方が坪単価で約10〜20万円高くなりがちですが、当然受け取る側からすれば、売却や活用時の選択肢が広がるマンションが嬉しいでしょう。
入居率が高いデザイナーズマンション
アパート・マンション経営でトレンドになっているのが、デザイナーズマンションです。
デザイナーズマンションの定義はありませんが、オシャレなマンション全般を示すことが多いです。デザイナーズマンションが有利な理由は、下記のとおりです。
入居率が高い
デザイナーズマンションに住んでいることをステータスに感じる人も多いです。
そのため入居から退去までのスパンが長い入居者が多く、満室状態が長期化します。
これにより家賃収入を安定的に得ることができます。
高い家賃設定ができる
デザイナーズマンションは他の一般的なマンションに対し、デザインや設備面で大きな差別化ができます。
他に類を見ないマンションにすることで競合を減らすことができ、その結果家賃設定を高くしても入居率を維持できます。
銀行対策がしやすい
デザイナーズマンションは高い安定性と高い家賃収入を兼ね備えており、万が一売却した際の売却益も多くなります。
また、担保にしてさらに資産運用したりする場合でも銀行からの融資が受けやすいです。
銀行としては非常に優秀な担保物件となるため、低金利で融資を得るための銀行対策としては非常に有効な手段といえるでしょう。
マンション経営は地域活性化にもつながる
マンション経営を維持することは、地域に衣食住の「住」を提供することになり、地域活性化につながります。
また、地域活性化のためには、街の景観も非常に重要です。建物のデザインを工夫することで街全体の景観にも大きく貢献できます。
不動産を活用した資産運用としてマンション経営は効果的な方法となるため、生前贈与や相続においても人気の不動産となるでしょう。
相続人に喜ばれ、地域にも貢献できるマンション経営を前向きに考えてみてはいかがでしょうか?
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