不動産市場において買い手・売り手の双方が見る資産価値。その価値の下落リスクとして挙げられるのが機械式立体駐車場(機械式駐車場)です。

剛力建設の機械式立体駐車場の解体後に設置する鋼製平面駐車場の「スマートデッキ」
剛力建設の機械式立体駐車場の解体後に設置する鋼製平面駐車場の「スマートデッキ」

売買仲介も扱いにくさ リスクの高さが顕在化

 都市部のマンションの6割超に設置されていると言われる機械式駐車場。ビルなどにも設置されているケースは多い。平置き駐車場として利用できる土地の少ない都心部では、台数を確保できる点から重宝されてきた。
 一方で機械式駐車場が物件に併設されていることで、不動産価値を下落させる「爆弾」になっていることもある。不動産売買仲介を行うコーヨー(千葉県松戸市)の中島賢東京支店長は「売却後のことを考慮すると、売りにくい物件のひとつです」と指摘する。実際に中島氏は過去に機械式駐車場が附置されたビルや商業施設の売買に携わったことがある。竣工から20~30年経過していたことから、故障が頻発。リニューアルも検討して見積もりをとるも「価格が高くて目線が合わなかった」と嘆息する。なかには部品の生産が終了していて修理が不可能なケースがあることや、そもそも竣工時とは車の形状も異なっていて、現在の一般的な車種とサイズが合っていないこともある。市場においても機械式駐車場があることで「売却価格の下落につながり、買い手にとっても購入後のリスクが高いことから買いにくい物件のひとつとなっています」とのことだ。

人口構造や社会の変化 機械式駐車場過渡期

 このような機械式駐車場の問題は設置されている物件の多くで抱えており、今後問題が噴出する可能性がある。そのなかで、解決に向けて動いているのが剛力建設(東京都江戸川区)だ。同社では「社会問題」としたうえで、約8年前からソリューションを提供。次第に認知度も上昇し、クライアント数を順調に増やしている。代表取締役の山﨑智博氏は機械式駐車場が多く設置された20~30年前と比べて、前提となる社会構造は「大きく変化している」と指摘する。「日本の人口動態は少子高齢化と減少フェーズに入っていて、機械式駐車場が多く新設された時代と比較すると、必要となる駐車場台数は縮小しています。加えて、車そのものについても電気自動車や自動運転など取り巻く環境は大きく変化しています。機械式駐車場はそれらへの対応は想定しておらず、次第に駐車できない車種も増えています。当然メンテナンスや故障なども考慮すると、不動産経営上のリスク要因になっています」(山﨑氏)。
 同社ではそれらの機械式駐車場の解体や減築を通して、人口減少や車の進化など、あらゆる状況に対応できる駐車場経営へのシフトチェンジを推奨している。そのなかで同社が展開してきたのが「スマートデッキ」だ。これは機械式駐車場を解体したのちにピット(地下)内に軽量鉄骨の柱と梁を組み立てて、その上に鋼製の平面を載せた構造物だ。メーカーに注文するよりも低コストに抑えられることから需要も大きい。山﨑氏は「これまで多くの現場を見てきて築いてきたノウハウや知見をもとに自社で企画設計から施工まで行うことができるのが強みとなっている」と自信を持つ。

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DX推進でMR導入 オーナーの意思決定支援

 オーナー側が決断をしやすい仕組みも考えている。その一つの施策となっているのがDXだ。剛力建設では数年前より東京工業大学発のベンチャー企業であるFusion Cubic(東京都台東区)代表取締役でロボット・人工知能などが専門の東工大博士課程卒の張遠瑞氏と連携。東工大との共同研究プロジェクト「現場測定データより建築図面の自動生成システム」にて人工知能による建築図面自動生成と複合現実(MR)技術による、自動生成図面をその場でリアル体験できる装置の開発に成功した。これにより、オーナー側は図面ではわかりにくかった施工後のイメージが湧きやすく、意思決定を支援する。それとともに、「スマートデッキ」の建設計画を設計するための時間と人件費を削減することにも成功した。
 張氏は「施工後のよりリアルな姿を事前に確認することが可能です」と話す。このシステムを活用するには、施工現場を小型ドローンのような非接触装置などで実測して面積などを確認。それらのデータを取り入れると、剛力建設でのこれまでの施工実績データから類似の案件を抽出して、現場の面積などに即した形で再現される。物理系の先端的な国際論文雑誌「JOURNAL OF PHYSICS」にも掲載された。剛力建設の実務と学術研究の成果がうまくシナジーを起こした形だ。

AIでキャッシュレス駆使 駐車場管理コスト圧縮策に

 両社で新しい駐車場運営のあり方も模索する。それがスマートパーキングだ。AIカメラによる可視化管理やキャッシュレス決済システムなどを導入した駐車場で、今年4月23日より江戸川区内で運用をスタートした。クラウド連携のコンピューターがリアルタイムに得られるデータの反復的な学習結果をもとに将来予測が可能な「機械学習」をする為、今やホテル予約時に当たり前となった変動料金(ダイナミック・プライシング)システムも構築可能になる。この先端技術の論文が、世界最大規模の電気・情報工学分野技術標準化機関による審査を先日通過し、英文で世界に発信される予定とのことである。
 「この駐車場にはフラップや車両を検知するループコイルを設置しておらず、カメラによって車両の入退出や駐車時間をチェックしています。また決済についても、現金とキャッシュレス決済に対応しています。現在日本中の駐車場の大半に不可欠の機械設備が不要で、初期投資やメンテンナンスコストが削減できます。将来的にはキャッシュレス決済のみとすることで、売上の回収業務などの手間を効率化し、駐車場価格の適正状況や収支などをリアルタイムで分析可能なツールとして利用可能です」(張氏)
 機械式駐車場は資産価値の下落につながりかねないものだが、その問題を解決し新たな駐車場にバトンを渡していければ、資産価値の維持・向上につなげることができる。山﨑氏は「今後10年間は機械式駐車場の解体が進んでいく」と断言している。自動運転のようなスマートモビリティも到来する中で、これらの変化にどのように対応していくかで、駐車場運営の成否が決まっていきそうだ。

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